リライティング日:2025年10月17日
羊水検査と絨毛検査の確定診断に伴う流産・合併症リスクを最新研究データに基づき詳しく解説。検査の仕組み、リスクの具体的な数値、限局性胎盤モザイクや多胎妊娠時の注意点まで網羅的にまとめています。
妊娠中に赤ちゃんの健康状態をより正確に知りたいと考えたとき、多くの方が「確定診断」にあたる羊水検査や絨毛検査という選択肢を耳にされることでしょう。これらは出生前検査の中でも精度が高く、染色体異常や遺伝子疾患の有無を直接確認できる重要な検査です。しかし、精度が高い一方で、妊婦さんやご家族が最も心配されるのが「リスク」ではないでしょうか。
NIPTなどのスクリーニング検査で陽性結果が出た場合や、高齢出産・家族歴などのリスク因子がある場合に、医師から確定診断としてこれらの侵襲的検査を提案されることがあります。その際、「流産のリスクはどのくらいあるのか」「赤ちゃんへの影響はないのか」という疑問を持たれる方は非常に多いです。
本記事では、羊水検査と絨毛検査に伴う流産や合併症のリスクについて、最新の大規模研究データに基づきながらわかりやすく解説します。実際の数字やリスクの内容を正確に知ることが、安心して検査を選択する第一歩となります。
確定診断とは?羊水検査・絨毛検査の基礎知識
出生前検査は大きく分けて「非確定検査(スクリーニング検査)」と「確定検査(確定診断)」の2つに分類されます。NIPT(新型出生前検査)やコンバインド検査、母体血清マーカー検査などはスクリーニング検査に該当し、胎児に染色体異常がある「可能性」を評価するものです。これらの検査で陽性が出た場合でも、必ずしも胎児に異常があるとは限りません。(1)
一方、羊水検査と絨毛検査は「確定検査」に分類され、胎児の細胞を直接採取して染色体や遺伝子を分析するため、診断精度は99%以上と非常に高い水準を誇ります。ただし、胎児周囲の組織に直接アプローチする侵襲的な検査であるため、流産などのリスクがゼロではない点が、スクリーニング検査との大きな違いです。(2)
確定診断を受けるかどうかは、スクリーニング検査の結果、年齢やご家族の遺伝歴、そして妊婦さんご自身やご家族の価値観を総合的に考慮して決定されます。そのため、検査を受ける前にリスクの内容と程度を十分に理解しておくことが極めて重要です。
羊水検査のリスク

羊水検査は、妊娠15週以降に行われる確定診断法です。お母さんのお腹に超音波で位置を確認しながら細い針を刺し、胎児を包んでいる羊水を少量(通常15〜20ml程度)採取します。羊水中には胎児由来の細胞が含まれており、その細胞を培養して染色体の数や構造を分析することで、ダウン症候群(21トリソミー)をはじめとする染色体異常や、一部の遺伝子疾患の有無を詳しく調べることができます。
羊水検査は歴史が長く、出生前の確定診断として世界中で広く実施されてきた検査です。検査自体は通常10〜15分程度で終了し、外来で日帰りで受けることが可能です。採取された羊水から結果が出るまでは、通常2〜3週間程度かかります。
流産のリスク
羊水検査で最も注意すべきリスクは流産です。
2019年に発表された大規模なシステマティックレビューとメタアナリシスによると、羊水検査に起因する流産リスクは約0.3%(1,000件あたり約3件)と報告されています。一方、2015年に発表された別のメタアナリシスでは、そのリスクは約0.1%(1,000件あたり約1件)とされています。(3)(4)
このように研究間でやや幅がありますが、いずれも従来の「200〜300回に1回(0.3〜0.5%)」という古い推定値よりも低い数値が示されています。これは、超音波ガイド技術の発展や、検査手技の向上によるものと考えられています。ただし、リスクが「ゼロ」ではない以上、検査を受ける際には十分なインフォームド・コンセント(説明と同意)が必要です。(5)
その他の合併症
流産以外にも、以下のような合併症が報告されています:
- 感染症
羊水検査のあとに子宮内感染(絨毛膜羊膜炎など)が起こる可能性があります。ただし、国際産婦人科超音波学会(ISUOG)のガイドラインでは、そのリスクは0.1%未満とされており、適切に清潔操作を行えばほとんど防ぐことができます。感染が起こった場合には、発熱や腹痛、異常なおりものといった症状が現れることがあるため、検査後にこうした症状を認めた場合はすぐに医療機関を受診することが大切です。(6) - 羊水漏れ
検査後に針を刺した部位から羊水が少し漏れることがあり、その頻度は約1〜2%です。ほとんどのケースでは自然に止まり、羊水量も短期間で回復しますが、まれに漏れが持続すると子宮内感染や流産の原因になることもあります。なお、同じ妊娠週数で自然破水が起こった場合と比較すると、検査に伴う羊水漏れからの流産リスクは低いとされています。(6) - 胎児への直接的損傷
超音波ガイドを併用せずに針を刺した場合、ごくまれに胎児が傷つくことがあります。報告例としては、眼の外傷、皮膚や腱の損傷、血管の損傷、さらには脳の損傷などがありますが、現代の医療では超音波で胎児の正確な位置をリアルタイムに確認しながら検査を行うのが標準的であるため、このような事例の発生は極めて稀です。(6) - 一過性の腹痛・出血
検査後に軽度の腹痛やごく少量の出血がみられることがあります。これらは多くの場合、数日以内に自然に治まります。ただし、激しい腹痛や持続的な出血がある場合には速やかに担当医に連絡する必要があります。
絨毛検査のリスク

絨毛検査(CVS:Chorionic Villus Sampling)は、妊娠10〜14週頃に実施される確定診断法です。胎盤の一部である絨毛組織を採取して、染色体の異常や遺伝子疾患の有無を詳しく調べます。羊水検査が妊娠15週以降に行われるのに対し、絨毛検査はより早い時期に実施できるという大きな利点があります。これにより、早期に結果を得ることができ、妊婦さんやご家族が今後の方針を検討するための時間的な余裕が生まれます。
アプローチ方法には、腹部から針を刺入する経腹法(TA-CVS)と、膣から細いカテーテルや鉗子を挿入して子宮頸部を通じて採取する経膣法(TC-CVS)の2つがあります。どちらの方法を選択するかは、胎盤の位置や子宮の形状、妊婦さんの体格などを総合的に評価して医師が判断します。
流産のリスク
絨毛検査においても最も注意すべきリスクは流産です。
2019年のシステマティックレビューとメタアナリシスによると、絨毛検査に起因する流産リスクは約0.2%(1,000件あたり約2件)と報告されています。また、2015年の別のメタアナリシスでも約0.22%とほぼ同様の数値が報告されています。(3)(4)
かつては絨毛検査の方が羊水検査よりも流産リスクが高いと考えられていた時期もありましたが、近年の研究では両者のリスクに大きな差がないことが明らかになっています。検査手技の向上と超音波技術の進歩により、どちらの検査もより安全に実施できるようになっています。
絨毛検査特有のリスク
- 胎児四肢欠損
妊娠9週以前に絨毛検査を行った場合、胎児の手足に欠損が生じるリスクがわずかに高まるとされています。ただし、これは非常に稀なケースであり、妊娠10週以降に検査を実施することでリスクは大きく低減できます。現在ではこの知見に基づき、妊娠10週より前には絨毛検査を行わないのが国際的な標準となっています。(2) - 母体出血
経膣法で検査を行うと、一時的に少量の出血が見られることがあります。これは子宮頸部を通じてカテーテルを挿入する際に起こるもので、多くは自然に止まります。しかし、抗凝固薬を使用している方では出血リスクがやや高くなる可能性があるため、検査前に必ず服用中の薬について医師に相談することが重要です。(2) - 感染症
検査後の感染症リスクは0.5%未満と非常に低いとされています。しかし、母体がHIVや肝炎(B型・C型)などの血液感染症を持っている場合、検査に伴い母子感染(垂直感染)のリスクが高まる可能性があるため、検査前に十分な説明を受け、リスクとベネフィットを慎重に検討する必要があります。(2) - Rh不適合
母体の血液型がRh陰性で胎児がRh陽性の場合、検査により母体と胎児の血液が混じることで、母体に抗D抗体が産生され、胎児溶血性疾患を引き起こす可能性があります。このため、Rh不適合は相対的な禁忌とされており、Rh陰性の妊婦さんには検査前後に抗D免疫グロブリンの投与が行われるのが一般的です。(2)
アプローチ方法による違い
経腹法と経膣法では、それぞれで起こりうる合併症には多少の違いがあります。経膣法では出血がやや起こりやすい一方、経腹法では針の刺入部位に痛みを感じることがあります。しかし、全体的な流産リスクや重大な合併症の発生率に大きな差はないと報告されています。実際の臨床現場では、胎盤の位置(前壁・後壁など)やお母さんの体の状態に合わせて、医師がより安全で確実にサンプルを採取できる方法を選択します。(4)
限局性胎盤モザイク(CPM)
絨毛検査には、限局性胎盤モザイク(Confined Placental Mosaicism:CPM)という特有の問題があります。これは全体の約1〜2%程度で起こる可能性があるとされています。(2)
限局性胎盤モザイクとは…
本来、胎盤と赤ちゃんは同じ受精卵から発生するため、同じ染色体の情報を持つはずです。しかし、初期の細胞分裂の過程で胎盤を構成する細胞の一部だけに染色体の変化が起こることがあります。この場合、絨毛検査では「異常あり」と判定されても、赤ちゃん自体は正常な染色体を持っているという不一致が生じます。
逆に、まれなケースとして胎盤の染色体は正常であっても、赤ちゃんの方に染色体異常があるケース(真のモザイク)も存在し、これは約10%程度の頻度で報告されています。
もし絨毛検査の結果と臨床所見の間に不一致の可能性が疑われる場合は、妊娠中期(15週以降)に羊水検査で再確認が行われることがあります。このような段階的な検査により、より正確な診断に近づくことが可能です。(2)
多胎妊娠でのリスク
双子以上の多胎妊娠では、単胎妊娠と比較して合併症のリスクがやや高い傾向があると報告されています。多胎妊娠では各胎児に対してそれぞれサンプルを採取する必要があるため、手技が複雑になることが一因と考えられます。ただし、そのリスク上昇は統計的に明確でないケースも多く、熟練した医師が適切な方法で行えば安全に実施できることが、2020年の最新の研究で示されています。多胎妊娠の場合は、より経験豊富な施設での検査が推奨されます。(7)
羊水検査と絨毛検査のリスク比較
ここでは、両検査の主なリスクを比較的にまとめます。
| 項目 | 羊水検査 | 絨毛検査 |
|---|---|---|
| 検査時期 | 妊娠15週以降 | 妊娠10〜14週頃 |
| 流産リスク | 約0.1〜0.3% | 約0.2〜0.22% |
| 特有のリスク | 羊水漏れ(1〜2%) | 限局性胎盤モザイク(1〜2%) |
上記のように、どちらの検査も流産リスクは1%未満であり、近年の医療技術の進歩によって安全性は大幅に向上しています。検査時期の違いが最も大きな選択ポイントとなることが多く、より早い段階で結果を知りたい場合は絨毛検査が、確実性をより重視する場合は羊水検査が選択される傾向があります。(3)(4)
リスクを最小限にするためにできること
確定診断のリスクを完全にゼロにすることはできませんが、以下のポイントを意識することで、リスクを最小限に抑えることが期待できます。
- 経験豊富な施設・医師を選ぶ
検査の安全性は、実施する医師の技術と経験に大きく左右されます。年間の実施件数が多い施設を選ぶことで、合併症のリスクを低減できます。(6) - 適切な検査時期を守る
羊水検査は15週以降、絨毛検査は10週以降に行うことが推奨されています。特に絨毛検査は9週以前に実施すると四肢欠損のリスクが指摘されているため、時期の厳守が重要です。(2) - 検査前に服用中の薬を医師に申告する
抗凝固薬や抗血小板薬を使用している方は出血リスクが高まる可能性があるため、必ず事前に担当医に伝えてください。 - 検査後の安静と経過観察を適切に行う
検査後24〜48時間は激しい運動や重い荷物の持ち上げを避け、安静を心がけましょう。腹痛や出血、発熱、羊水漏れなどの異常があれば、すぐに医療機関に連絡することが重要です。 - 事前にNIPTなどのスクリーニング検査を活用する
NIPTは母体の血液のみで行える非侵襲的検査であり、胎児への直接的なリスクがありません。NIPTで陰性(低リスク)と判定された場合、不必要な侵襲的検査を避けることができます。確定診断が必要な場合にのみ羊水検査や絨毛検査に進むという段階的なアプローチが、現在の出生前診断の標準的な考え方です。(1)
まとめ
羊水検査と絨毛検査は、どちらも胎児の染色体や遺伝子を直接調べることができる確定診断法であり、高い診断精度を持つ一方で、流産や感染といった一定のリスクを伴います。近年の大規模なメタアナリシスにより、そのリスクは従来考えられていたよりも低いことが明確に示されていますが、「ゼロ」ではありません。
また、検査時期や胎盤の位置、多胎妊娠といった条件によっても合併症の可能性は変化します。絨毛検査では限局性胎盤モザイクという特有の問題も存在するため、結果の解釈には専門的な知識が求められます。
大切なのは、メリットとリスクを正しく理解した上で、ご自身やご家族にとって最適な選択をすることです。検査を受けるかどうかに「正解」はなく、ご夫婦の価値観やライフプランに基づいた判断が最も尊重されるべきです。本記事が、検査を検討される皆さまの不安を和らげ、納得のいく選択につながる一助となれば幸いです。
もし確定診断のリスクが心配で、まずは非侵襲的な方法で赤ちゃんの健康状態を知りたいとお考えの方には、NIPTという選択肢もあります。NIPTはお母さんの血液を採取するだけの検査であり、胎児への直接的なリスクがない安全な検査方法です。
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よくあるご質問
Q1. 羊水検査の流産リスクは具体的にどのくらいですか?
A. 最新の大規模研究によると、羊水検査に起因する流産リスクは約0.1〜0.3%(1,000件あたり1〜3件程度)と報告されています。従来の推定値よりも低い数値が示されており、超音波ガイド技術や検査手技の向上が安全性の改善に寄与しています。
Q2. 絨毛検査と羊水検査はどちらがリスクが高いですか?
A. 近年の研究では、絨毛検査の流産リスクは約0.2%、羊水検査は約0.1〜0.3%と報告されており、両者のリスクに大きな差はないとされています。ただし、絨毛検査には限局性胎盤モザイクという特有の問題があり、羊水検査には羊水漏れのリスクがある点で、合併症の種類には違いがあります。
Q3. 限局性胎盤モザイクとは何ですか?
A. 限局性胎盤モザイク(CPM)とは、胎盤の一部と赤ちゃんの染色体構成が異なる状態を指します。絨毛検査は胎盤組織を採取して調べるため、約1〜2%の頻度でこの不一致が生じる可能性があります。結果として、検査では「異常あり」と出ても赤ちゃん自体は正常というケースがあり、必要に応じて羊水検査で確認が行われます。
Q4. NIPTで陽性が出た場合、必ず確定診断を受けなければなりませんか?
A. NIPTで陽性結果が出た場合、確定診断(羊水検査または絨毛検査)を受けることが推奨されますが、最終的な判断は妊婦さんご自身とご家族に委ねられます。NIPTはスクリーニング検査であり、偽陽性(実際には異常がないにもかかわらず陽性と判定されるケース)が含まれる可能性があるため、確定診断による裏付けが重要とされています。
Q5. 確定診断のリスクを下げるためにできることはありますか?
A. 経験豊富な医師・施設で検査を受けること、適切な検査時期を守ること、事前に服用中の薬を医師に申告すること、検査後に適切な安静を保つことなどが、リスクを最小限に抑えるために重要です。また、まずNIPTで染色体異常のリスクを評価し、必要な場合にのみ確定診断に進むという段階的なアプローチも推奨されます。
Q6. 多胎妊娠(双子など)でも確定診断は受けられますか?
A. はい、双子以上の多胎妊娠でも羊水検査・絨毛検査は実施可能です。ただし、各胎児についてそれぞれサンプルを採取する必要があるため、手技が複雑になり、合併症のリスクがやや高くなる可能性があります。多胎妊娠の確定診断は、特に経験豊富な施設で受けることが推奨されます。
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著者
医学博士・医師
広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system
Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
【参考文献】
(1) Ultrasound Obstet Gynecol, 2016年8月(2) Ultrasound Obstet Gynecol, 2015年1月
(3) Carbohydr Polym, 2016年4月
(4) NCBI Bookshelf, 2025年1月
(5) Ultrasound Obstet Gynecol, 2020年11月
(6) Ultrasound Obstet Gynecol, 2019年10月
(7) Stroke, 2016年1月