管理栄養士はDNA!?

2020.09.16

リライティング日:2025年01月20日

ロンドン発のDnaNudgeは、個人のDNA(SNP)情報をもとにリストバンドで食品の適否を判定する革新的デバイスです。本記事ではその仕組みや活用法、SNP解析の将来展望を詳しく解説します。

食事の際、栄養バランスや量を気にしていますか?

食事の際、栄養バランスや量を気にしていますか?皆様は食事の際、栄養バランスや量を気にしていますか?「食べたいものを好きなだけ食べている」という方は少なくないかもしれません。しかし、年齢を重ねるにつれて健康的な食事への関心は高まるものです。とはいえ、「あまり食べない方がいいもの」「いつ何を食べるべきか」といった情報はインターネット上にあふれかえっており、何を信じてよいか混乱してしまうのが現実ではないでしょうか。

厚生労働省が推進する「日本人の食事摂取基準」でも、年齢・性別・活動量に応じた栄養素の推奨量が細かく示されていますが、これらはあくまで集団レベルの平均的な指標です。実際には、同じ年齢・性別であっても、遺伝的な体質の違いによって必要とされる栄養素やその量は一人ひとり異なります。こうした「個別化栄養(パーソナライズド・ニュートリション)」の概念は近年急速に注目を集めており、その最前線に立つ製品のひとつが、ロンドンに拠点を置く企業「DnaNudge」が開発したDNA対応リストバンドです。(1)

DnaNudgeとは? — DNA情報で食品選びをサポートするウェアラブルデバイス

DnaNudgeとは? — DNA情報で食品選びをサポートするウェアラブルデバイスDnaNudgeは、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究から生まれたスタートアップ企業で、個人のDNA情報をもとに食品や飲み物がその人の身体にとって最適かどうかを瞬時に判定してくれるリストバンド型デバイスを開発しました。この製品は、単に一般的な栄養ガイドラインに基づくアドバイスを提供するのではなく、ユーザー固有の遺伝情報を活用して個別化された食品レコメンデーションを行う点が画期的です。(2)

DnaNudgeの仕組み — DNAの採取から食品判定まで

DnaNudgeの仕組み — DNAの採取から食品判定までDnaNudgeの利用プロセスは、非常にシンプルかつ科学的に設計されています。

  1. DNA採取キットの購入:イギリス国内の店舗またはインターネットでDNA採取キットを購入します。
  2. 口腔上皮の採取:付属の綿棒を使い、頬の内側(口腔上皮)をこすって細胞を採取します。この方法は痛みを伴わず、短時間で完了します。
  3. 専用カートリッジへの封入:採取した綿棒を専用のカートリッジに入れます。
  4. DNA抽出・分析ボックスでの解析:カートリッジをDNA抽出・分析用のボックスに挿入すると、ボックスに取り付けられたカプセルにDNA情報がロードされます。
  5. スマホアプリ・リストバンドへの共有:ロードされた遺伝情報は、スマートフォンのアプリとリストバンドに自動的に共有されます。
  6. バーコードスキャンによる食品判定:買い物に出かけた際、スマホまたはリストバンドで商品のバーコードを読み取ると、その商品が自身の身体にとって最適な食品かどうかが色によって直感的に表示されます。

SNP(一塩基多型)とは?

DnaNudgeの核心技術は、SNP(Single Nucleotide Polymorphism;一塩基多型)の解析にあります。SNPとは、DNAの配列のうち1つの塩基(A・T・G・Cのいずれか)が個人間で異なっている部分のことで、ヒトゲノム全体で約400〜500万箇所存在するとされています。このSNPの違いが、栄養素の代謝効率、特定の栄養素に対する感受性、食品成分への反応性などに影響を与えることが、近年の栄養ゲノミクス研究で明らかになっています。(3)

例えば、カフェインの代謝速度に関与するCYP1A2遺伝子のSNP、乳糖不耐症に関連するLCT遺伝子のSNP、脂質代謝に影響するAPOE遺伝子のSNPなどが代表的です。DnaNudgeはこうした栄養に関連した健康状態に関するSNPを複数調べることで、一般的に必要とされる栄養素を単に提案するのではなく、各個人が本当に必要とする栄養素を含む食品を判別しています。

時間帯によって判定結果が変わるインテリジェント機能

DnaNudgeの興味深い特徴のひとつは、バーコードを読み取るタイミングによって同じ商品でも最適かどうかの判定結果が変わる点です。例えば、クッキーを買おうとしてバーコードを読み取る場合、日中(活動量が多い時間帯)には「最適」と判断されたものが、夜中(活動量が少なく就寝前の時間帯)には「適さない」と判断されることがあります。これは、体内の代謝リズム(概日リズム/サーカディアンリズム)を考慮した設計であり、単なる栄養成分の比較にとどまらない高度なアルゴリズムが組み込まれていることを示しています。

個別化栄養(パーソナライズド・ニュートリション)の意義

従来の栄養学は「万人に共通する食事指針」を基本としてきましたが、同じ食事を摂っても血糖値の上がり方や脂質の蓄積度合いは人によって大きく異なることが、近年の大規模研究で示されています。こうした個人差を生む要因のひとつが遺伝的背景であり、SNP解析に基づく個別化栄養はこの問題を解決する有力なアプローチとして期待されています。

  • 遺伝的な体質に合った食品選びが可能になる:脂質代謝が遅いタイプの方は高脂肪食品を控えるなど、科学的根拠に基づいた食品選びが実現します。
  • 生活習慣病の予防につながる:自分に適した栄養バランスを知ることで、肥満・糖尿病・高血圧などのリスクを低減できる可能性があります。
  • 買い物の効率化:多数の食品の中から自分に合ったものを瞬時に判別できるため、買い物の時間を短縮できます。
  • 食事に関するストレスの軽減:「何を食べるべきか」に悩む精神的な負担を軽減し、楽しみながら健康管理ができます。

今後のSNP解析を利用した様々なビジネスへの期待

DnaNudgeのように、個人個人に適した食品を提示してもらえると、多くの食品を前にして悩まなくて済むだけでなく、より健康的な生活を送れることが期待できます。もっとも、この製品が示すのはあなたにとって最適な食品ではありますが、絶対に従わないといけないものではないことを念頭に置いた方が精神衛生上はよいかもしれません。遺伝情報はあくまで「傾向」を示すものであり、実際の健康状態は生活習慣や環境要因にも大きく左右されるからです。

現時点ではDnaNudgeはイギリス国内を中心にサービスを展開していますが、いつか日本でも使えるようになることが期待されます。日本国内でもDNA検査を活用した健康サービスは徐々に広がりを見せており、遺伝子検査に基づくサプリメントの提案や、体質に合ったダイエットプログラムの提供などが登場しています。

SNP解析の多様な応用分野

DnaNudgeで調べているSNPは栄養と健康状態に関する部分ですが、SNP解析の応用範囲はそれだけにとどまりません。弊社(株式会社シードナ)の出生前鑑定では、個人識別をするのに有効な部分のSNPを解析しています。SNPにはこれらの他にも、以下のような多様な情報が含まれています。

SNP解析の応用分野概要
疾患リスク予測がん・心臓病・糖尿病など、かかりやすい病気のリスクを推定
薬剤感受性特定の薬の効きやすさ・副作用リスクを事前に把握
アレルギー傾向食物アレルギーや花粉症などのアレルギー体質の有無を推定

このように、SNP解析技術の進歩により、今後もさまざまな分野で遺伝情報を活用したビジネスやサービスが登場してくることが予想されます。食品選びだけでなく、運動プログラムの最適化、スキンケア製品の選定、さらには精神的な健康管理に至るまで、SNPデータが生活の質を向上させる鍵となる時代が到来しつつあります。

まとめ — DNAで変わる未来の食生活

DnaNudgeの登場は、「遺伝情報を日常の食品選びに直接活用する」という新しいライフスタイルの幕開けを象徴しています。SNP解析によって個人の遺伝的体質を把握し、それに基づいて最適な食品をリアルタイムで判定するこの技術は、個別化栄養の未来を切り拓くものです。栄養情報があふれかえる現代社会において、科学的根拠に基づいた食品選びのサポートは、多くの人々の健康増進に寄与することでしょう。今後の技術発展とサービスのグローバル展開に大いに期待が持たれます。

よくあるご質問

Q1. DnaNudgeのリストバンドは日本でも購入できますか?

A. 現時点(2025年1月時点)では、DnaNudgeは主にイギリス国内でサービスを展開しており、日本国内での一般販売は行われていません。ただし、個別化栄養に関する技術やサービスは世界的に普及が進んでおり、今後日本での展開が期待されます。

Q2. SNP(一塩基多型)の検査は痛みを伴いますか?

A. DnaNudgeをはじめとする多くのSNP検査では、綿棒で頬の内側(口腔上皮)をこするだけでDNAを採取するため、痛みはほとんどありません。採血が不要で、自宅で簡単に行えるのが大きな特長です。

Q3. なぜ同じ商品でも時間帯によって判定結果が変わるのですか?

A. 人間の体内には概日リズム(サーカディアンリズム)があり、時間帯によって代謝活性やホルモン分泌が変化します。DnaNudgeはこうした体内リズムを考慮し、活動量が高い日中と代謝が低下する夜間で異なる判定を行うことで、より正確な食品レコメンデーションを実現しています。

Q4. SNP解析と一般的なDNA鑑定はどう違うのですか?

A. SNP解析は、DNA配列上の一塩基の違いを調べることで体質や疾患リスクなどを推定する手法です。一方、一般的なDNA鑑定(親子鑑定や個人識別など)では、STR(Short Tandem Repeat)やSNPのうち個人識別に有効な部位を解析します。目的に応じて解析対象となるDNA領域が異なります。

Q5. DnaNudgeの判定結果に必ず従わなければなりませんか?

A. いいえ、DnaNudgeが提示する情報はあくまで遺伝的傾向に基づく「推奨」であり、絶対的な指示ではありません。実際の健康状態は遺伝だけでなく、生活習慣・環境要因・ストレスなど多くの因子に影響されます。参考情報として活用しつつ、必要に応じて医師や管理栄養士に相談することをおすすめします。

Q6. 株式会社シードナでもSNP解析は行っていますか?

A. 弊社(株式会社シードナ)では、出生前鑑定をはじめとするDNA鑑定サービスにおいてSNP解析を活用しています。特に個人識別に有効なSNP部位の解析に高い専門性を持っており、正確かつ信頼性の高い鑑定結果を提供しています。

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医学博士 富金 起範著者

医学博士 富金 起範

筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発

【参考文献】

(1) BMJ, 2020年4月
(2) Nat Rev Genet, 2004年8月
(3) Hum Resour Health, 2017年9月
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