【専門家が監修】なぜ、母の血液だけでお腹の赤ちゃんの検査ができるの?

2025.10.26

リライティング日:2025年11月13日

NIPTは妊婦の採血だけで胎児の染色体異常リスクを調べられる検査です。胎盤の絨毛膜細胞から放出されるセルフリーDNA(cfDNA)を次世代シーケンサーで解析する仕組みや、検査精度・注意点を専門家が詳しく解説します。

NIPTで絨毛膜など胎児組織を採取しなくても済む理由

「お腹の赤ちゃんの検査をしたいけれど、針を刺すような検査は怖い」――妊婦さんにとって、侵襲的な検査への不安は大きなものです。NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、母体の腕から少量の血液を採取するだけで胎児の染色体異常のリスクを高精度に推定できる画期的な検査として、世界中で急速に普及しています。では、なぜ絨毛や羊水を直接採取しなくても、採血だけで胎児の遺伝情報にアクセスできるのでしょうか。本記事では、その科学的メカニズムから注意点、検査の流れまでを詳しく解説します。

胎児由来DNA(cfDNA:cell-free DNA)とは?

胎児由来DNA(cfDNA:cell-free DNA)とは?

妊娠すると、胎児を包む「胎盤(特に絨毛膜)」の細胞が少しずつ血中で壊れます。その際、細胞内にあったDNAが細かく断片化して母体の血液中に流れ出ます。このDNA断片を「セルフリーDNA(cfDNA:cell-free DNA)」と呼びます。(1)(2)

母体血中のcfDNAのうち、胎児に由来するDNA(胎児由来cfDNA)は全体の約5〜15%程度を占めます。つまり、妊娠中の母親の血液の中には、母体自身のDNAと胎児由来DNAが混在しているのです。(1)(2)

cfDNAの存在自体は1948年にMandel and Metaisによって初めて報告されましたが、妊婦の血液中に胎児由来のDNAが含まれていることが確認されたのは1997年のことです。香港中文大学のDennis Lo教授らが、母体血漿中にY染色体由来のDNA配列を検出し、男児を妊娠している母体の血液中に胎児のDNAが循環していることを科学的に証明しました。 この画期的な発見が、後のNIPT開発への道を切り開いたのです。(2)

胎児由来cfDNAの断片は一般的に約166塩基対(bp)と短く、母体由来のcfDNAよりも短い傾向があります。この特性の違いは、解析精度の向上にも活用されています。また、cfDNAは胎盤の絨毛細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)によって常に新しく放出されており、半減期は約16分と非常に短いことが知られています。そのため、cfDNAの濃度は採血時点での胎児の状態をほぼリアルタイムに反映していると考えられます。(1)

NIPTはこのcfDNAを解析している

NIPTはこのcfDNAを解析している

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)では、採血によって母体血液中のcfDNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS:Next-Generation Sequencing)などで解析します。得られたDNA断片の染色体ごとの量を統計的に比較することで、特定の染色体が過剰に存在するかを検出します。(3)(4)

具体的には、母体血中から抽出されたcfDNAの全断片をシーケンシング(塩基配列の読み取り)し、それぞれの断片がヒトゲノムのどの染色体に由来するかを特定します。正常な場合、各染色体に由来するDNA断片の割合は一定の範囲内に収まりますが、胎児にトリソミー(染色体が3本ある状態)がある場合、その染色体に由来するDNA断片が統計的に有意に多くなります。この微細な量的偏差を高感度に検出するのがNIPTの原理です。

  • 21番染色体が多い → ダウン症候群(21トリソミー)
  • 18番染色体が多い → エドワーズ症候群(18トリソミー)
  • 13番染色体が多い → パトウ症候群(13トリソミー)

近年では、上記3つのトリソミーに加え、性染色体異常(モノソミーXなど)や微小欠失症候群のスクリーニングにも応用範囲が拡大しています。NIPTの感度(検出率)は、21トリソミーに対して99%以上、18トリソミーに対して97〜99%、13トリソミーに対して91〜99%と非常に高い水準が報告されています。 ただし、あくまでもスクリーニング検査であり、確定診断ではないという点を正しく理解しておく必要があります。(4)(5)

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絨毛や羊水を採らなくてもよい理由

絨毛や羊水を採らなくてもよい理由

従来の出生前診断(絨毛検査・羊水検査)は、胎児細胞を直接採取し染色体を調べる侵襲的検査でした。絨毛検査は妊娠11〜14週頃に胎盤の一部(絨毛組織)を針やカテーテルで採取し、羊水検査は妊娠15〜18週頃に腹部から針を刺して羊水を採取します。いずれも高い確定力を持つ一方で、約0.1〜0.3%の割合で流産のリスクが伴います。(6)(7)

しかし、NIPTは胎児由来DNAが自然に母体血中へ放出されていることを利用しており、胎児組織を直接採取する必要がありません。このため、採血だけで胎児の遺伝情報を推定でき、母体や胎児へのリスクを大幅に低減できます。厚生労働省も、出生前検査に関する報告書の中で「母体血を用いた非侵襲的検査としての有用性」を認めています。(7)

さらに、NIPTは妊娠10週目以降という比較的早い時期から受検可能であるという利点もあります。早期にリスクを把握することで、妊婦さんとご家族がその後の方針についてじっくりと考える時間を確保できる点も、大きなメリットのひとつです。

cfDNAは胎盤由来なので「胎児そのもの」とは限らない

重要な点として、母体血中の胎児由来cfDNAは胎盤由来であることが知られています。胎盤と胎児の遺伝情報はほぼ同一ですが、まれに「胎盤モザイク(CPM:Confined Placental Mosaicism)」と呼ばれる状態(胎盤だけに染色体異常がある)が起こることがあります。(7)(8)

胎盤モザイクの頻度は約1〜2%とされており、NIPTで偽陽性(実際には胎児に異常がないのに陽性と判定される)が生じる主な原因のひとつです。逆に、非常に稀ですが胎盤が正常で胎児に異常がある場合に偽陰性となることも理論的にはあり得ます。

したがって、NIPTで「陽性」と出ても、胎児に本当に異常があるかどうかは、羊水検査などによる確定診断が必要です。NIPTの結果は「可能性が高い・低い」という確率的な情報を示すものであり、最終的な判断は確定検査の結果と遺伝カウンセリングに基づいて行うことが推奨されます。(7)

胎盤モザイク(CPM)とは

胎盤と胎児はもともと同じ受精卵に由来しますが、発生の過程で胎盤側の細胞にのみ染色体の異常が生じることがあります。この状態を「限局性胎盤モザイク」と呼びます。NIPTで検出しているcfDNAは主に胎盤の絨毛細胞に由来するため、CPMが存在すると検査結果と胎児の実際の状態が一致しない場合があるのです。

胎児由来cfDNAの割合(フェタルフラクション)と検査精度

NIPTの精度を左右する重要な要素のひとつが「フェタルフラクション(fetal fraction:FF)」、すなわち母体血中のcfDNA全体に占める胎児由来cfDNAの割合です。一般的に、フェタルフラクションが4%以上であれば信頼性の高い結果が得られるとされています。(5)(7)

フェタルフラクションは以下のような要因によって変動します。

  • 妊娠週数:週数が進むほどフェタルフラクションは上昇する傾向がある
  • 母体体重(BMI):肥満の場合、母体由来cfDNAの割合が増加し、相対的にフェタルフラクションが低下する
  • 胎盤の大きさ:胎盤が小さい場合、cfDNAの放出量が少なくなる可能性がある
  • 多胎妊娠:双胎以上の場合、解析がより複雑になる

フェタルフラクションが低すぎる場合は「判定不能」として結果が報告されることがあり、その場合は再採血や他の検査方法を検討する必要があります。検査を受ける適切な時期(妊娠10週以降)を守ることが、正確な結果を得るために重要です。(2)(7)

NIPTの検査フロー:採血から結果報告まで

NIPTの具体的な流れを以下にまとめます。検査の全体像を把握しておくことで、安心して受検に臨むことができます。

  1. 事前相談・申込み:検査の対象や限界、結果の解釈について十分な説明を受けます。遺伝カウンセリングを受けることも推奨されます。
  2. 採血:妊娠10週以降に、母体の腕から約10〜20mLの血液を採取します。通常の血液検査と同様の手順であり、特別な前処置は不要です。
  3. cfDNAの抽出:採取した血液から血漿を分離し、その中に含まれるcfDNAを精製・抽出します。
  4. 次世代シーケンサー(NGS)による解析:抽出したcfDNAを大規模並列シーケンシングにかけ、数百万〜数千万のDNA断片の塩基配列を読み取ります。
  5. バイオインフォマティクス解析:得られた膨大な配列データを参照ゲノムにマッピングし、各染色体に由来する断片の量を統計的に比較します。
  6. 結果報告:「陽性(高リスク)」「陰性(低リスク)」「判定不能」のいずれかで報告されます。通常、採血から約1〜2週間で結果が届きます。

陽性結果が出た場合でも、それは「確率が高い」ことを意味するものであり、確定ではありません。羊水検査や絨毛検査による確定診断と、専門の遺伝カウンセラーによるカウンセリングを受けることが強く推奨されます。(6)(7)

まとめ:採血だけで検査できる理由

要素内容
胎児DNAの存在胎盤の絨毛細胞が壊れてDNA断片(cfDNA)が母体血中に放出される
cfDNAの特徴胎児由来DNAは全cfDNAの約5〜15%を占め、半減期は約16分と短い
検査の仕組みcfDNAを次世代シーケンサーで解析し、染色体の数の偏りを統計的に検出
要素内容
絨毛・羊水が不要な理由胎児DNAが母体血に自然に存在するため、侵襲的な採取が不要
注意点胎盤由来DNAのため胎盤モザイクの可能性があり、確定診断には羊水検査が必要な場合もある

このように、NIPTは「胎盤から放出された胎児DNAを母体血から読み取る」ことで、非侵襲的かつ高精度に胎児の染色体情報を推定する仕組みになっています。従来の侵襲的検査と比較して流産リスクがなく、妊娠10週という早い段階から受検できるNIPTは、妊婦さんとご家族にとって非常に有用な選択肢です。ただし、スクリーニング検査としての限界(偽陽性・偽陰性の可能性)を正しく理解し、必要に応じて確定診断や遺伝カウンセリングを受けることが大切です。seeDNA遺伝医療研究所では、検査に関する疑問や不安に対して専門スタッフが丁寧にサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

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よくあるご質問

Q1. NIPTは妊娠何週目から受けられますか?

A. NIPTは一般的に妊娠10週目以降から受検可能です。妊娠週数が進むと胎児由来cfDNA(フェタルフラクション)の割合が増加するため、より信頼性の高い結果が得られやすくなります。ただし、検査機関によって推奨される受検時期が異なる場合がありますので、事前にご確認ください。

Q2. NIPTで陽性と出た場合、必ず赤ちゃんに異常があるのですか?

A. いいえ、NIPTはあくまでもスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。陽性結果が出た場合でも、胎盤モザイク(CPM)などの影響により偽陽性の可能性があります。そのため、陽性結果の場合は羊水検査や絨毛検査による確定診断を受けることが推奨されます。

Q3. NIPTの採血量はどのくらいですか?痛みはありますか?

A. NIPTに必要な採血量は約10〜20mLで、通常の健康診断での採血と同程度です。腕の静脈から採取するため、特別な痛みや前処置はありません。一般的な採血と同様のわずかな痛みを感じる程度です。

Q4. フェタルフラクションが低いと結果はどうなりますか?

A. フェタルフラクション(母体血中の胎児由来cfDNAの割合)が低すぎる場合(一般的に4%未満)、検査精度が保証できないため「判定不能」として結果が報告されることがあります。その場合は、1〜2週間後に再採血して再検査を行うか、他の検査方法を検討します。母体の体重(BMI)が高い場合や妊娠週数が早い場合にフェタルフラクションが低くなる傾向があります。

Q5. NIPTと従来の出生前検査(絨毛検査・羊水検査)の違いは何ですか?

A. 最大の違いは侵襲性の有無です。絨毛検査や羊水検査は子宮内に針やカテーテルを挿入する侵襲的検査であり、約0.1〜0.3%の流産リスクがあります。一方、NIPTは母体の腕からの採血のみで完了するため、流産リスクがありません。ただし、NIPTはスクリーニング検査であり、確定診断の精度を持つ絨毛検査・羊水検査とは検査の位置づけが異なります。NIPTで陽性となった場合は確定診断が必要です。

Q6. 双子(多胎)の場合もNIPTは受けられますか?

A. 双胎妊娠でもNIPTを受けることは可能ですが、解析がより複雑になるため、一部の項目では精度が低下する場合があります。特に、一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)と二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)で条件が異なることがあるため、事前に検査機関へご相談いただくことをお勧めします。

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seeDNA遺伝医療研究所医学博士 富金 起範 著者

医学博士 富金 起範

筑波大学、生体統御・分子情報医学修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発

【参考文献】

(1) SpringerLink, 2021年8月
(2) J Biol Chem, 1997年3月
(3) 夫婦一緒に子育て, 2022年9月
(4) CNN.co.jp, 2016年10月
(5) 厚生労働省「先端医療技術評価部会報告書(NIPT等)」, 1999年2月
(6) Blood, 2013年12月
(7) Med J Aust, 2015年7月
(8) Sci Rep, 2016年4月
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