リライティング日:2025年11月10日
従来の出生前診断(母体血清マーカー・羊水検査・絨毛検査)と新型出生前診断(NIPT)の違いを、精度・リスク・検査時期・対象疾患の観点から専門家が詳しく比較解説します。
~母体血清マーカー・羊水・絨毛検査との比較~
妊娠がわかると、多くの方が「おなかの赤ちゃんが健康に育っているだろうか」と気になるものです。そうした不安に寄り添い、赤ちゃんの染色体や遺伝子の状態を早期に知るために行われるのが「出生前診断」です。
出生前診断にはいくつかの種類がありますが、大きく分けると「従来の検査(母体血清マーカー検査・羊水検査・絨毛検査)」と、近年注目を集めている「新型出生前診断(NIPT)」があります。
日本では2013年にNIPTの臨床研究が開始されて以降、検査を受ける妊婦の数は年々増加しています。厚生労働省の報告によると、出生前検査に対する社会的関心の高まりとともに、検査の選択肢が多様化し、妊婦とそのご家族がより適切な判断を行うための情報提供が求められています。
今回は、それぞれの特徴や精度、リスク、そして対象となる異常の範囲を比較しながら、違いをわかりやすく解説します。(1)(2)(3)
従来の出生前診断とは?

従来の出生前診断は、妊娠中に胎児の染色体異常や先天性疾患を調べるために長年用いられてきた検査群です。これらの検査は大きく「非確定検査(スクリーニング検査)」と「確定検査」に分類されます。非確定検査は母体への負担が少ないものの結果が確率的であり、確定検査は高い診断精度を持つ反面、侵襲性が高く流産のリスクを伴います。以下にそれぞれの検査の特徴を詳しく解説します。(4)
① 母体血清マーカー検査
母体血清マーカー検査は、母体の血液中に含まれる特定のタンパク質やホルモン(AFP、hCG、uE3、インヒビンAなど)の量を測定し、染色体異常のリスクを統計的に推定する検査です。
検査時期は妊娠15〜18週頃で、採血のみで行えるため母体への身体的負担は少ない一方、検査結果は「可能性の高低」を示すに過ぎず、確定診断ではありません。検査の感度(検出率)は約80%とされており、偽陽性率もNIPTと比較するとやや高い傾向があります。
この検査は「トリプルマーカーテスト」や「クアトロテスト」とも呼ばれ、母体の年齢や妊娠週数、体重などの情報と血液検査の結果を組み合わせて、リスクを数値として算出します。あくまで統計的な確率を示すものであるため、高リスクと判定された場合には、羊水検査や絨毛検査などの確定検査を受けることが推奨されます。
主に推定できる疾患:(1)
- ダウン症候群(21トリソミー) ── 最も一般的な常染色体トリソミーで、知的障害や心疾患を伴うことがあります
- エドワーズ症候群(18トリソミー) ── 重度の発達遅延や多臓器の異常を伴い、生存率が低い疾患です
- パトウ症候群(13トリソミー) ── 重篤な中枢神経系の異常や心疾患を伴うことが多い疾患です
- 開放性神経管欠損症 ── AFP値の上昇によって推定されることがあります
② 羊水検査
羊水検査は、妊娠15〜18週頃に超音波画像で胎児や胎盤の位置を確認しながら、母体の腹部に細い針を刺して約15〜20mLの羊水を採取する検査です。羊水の中には胎児由来の細胞が含まれており、その染色体を直接培養・分析することで確定的に診断ができます。
羊水検査は出生前診断における「ゴールドスタンダード(標準的確定検査)」と位置づけられており、染色体数の異常(トリソミーやモノソミー)だけでなく、染色体の構造異常(転座、欠失、重複など)も検出可能です。結果が出るまでには通常2〜3週間を要しますが、FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)を併用すれば、13番・18番・21番染色体および性染色体の異常については数日以内に暫定結果を得ることもできます。
ただし、腹部に針を刺す侵襲的な手技を伴うため、約0.1〜0.3%(1/300〜1/1000程度)の確率で流産が起こる可能性があるとされています。この流産リスクは小さいものの、ゼロではないため、検査を受けるかどうかは主治医や遺伝カウンセラーと十分に相談して判断することが大切です。(4)(5)
③ 絨毛検査
絨毛検査(CVS:Chorionic Villus Sampling)は、妊娠11〜14週頃に胎盤の一部である絨毛(胎児側の組織)を採取して染色体を調べる検査です。採取方法は経腹法(腹部から針を刺す方法)と経膣法(子宮頸部からカテーテルを挿入する方法)があり、施設や妊婦の状態によって選択されます。
羊水検査よりも早い妊娠初期に確定的な診断結果を得られるのが最大の特徴です。結果は直接法であれば数日〜1週間、培養法であれば2〜3週間程度で判明します。
一方で、流産リスクは羊水検査と同程度(約0.1〜0.3%)あり、まれに「胎盤モザイク(CPM)」と呼ばれる現象により、胎盤と胎児で染色体構成が異なるケースが報告されています。この場合、絨毛検査の結果が胎児の実際の染色体構成を正確に反映していないことがあるため、追加の羊水検査で確認が必要になることもあります。(5)
新型出生前診断(NIPT)とは?

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、母体の血液中に含まれる「胎児由来のDNA断片(cell-free DNA:cfDNA)」を解析することで、染色体や遺伝子の異常を推定する検査です。
妊娠中の母体の血液には、胎盤を通じて胎児由来のcfDNAが混在しています。NIPTではこのcfDNAを次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)技術などを用いて大量に読み取り、特定の染色体のDNA量のわずかな偏りを検出することで、トリソミーなどの異常の有無を高精度に推定します。
採血だけで行える非侵襲的な検査であり、母体や胎児にリスクがほぼない点が最大の特徴です。検査は妊娠10週以降から可能で、従来の母体血清マーカー検査(妊娠15週以降)や羊水検査(同15週以降)と比べて、より早い段階で結果を得ることができます。(6)(7)
NIPTの検査でわかること
基本的には以下の染色体異常を調べます。
- 21トリソミー(ダウン症候群)── 感度99%以上、偽陽性率0.1%未満
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)── 感度97〜99%程度
- 13トリソミー(パトウ症候群)── 感度90〜99%程度
NIPTの感度と特異度は非常に高く、特に21トリソミーに関しては検出率が99%を超えるとの大規模メタアナリシスの結果が報告されています。ただし、NIPTはあくまで「スクリーニング検査」であり、陽性の場合でも必ず羊水検査などの確定検査を行う必要があります。(6)
施設によっては追加で以下も解析可能です。
- 性染色体異常(例:ターナー症候群〔モノソミーX〕、クラインフェルター症候群〔XXY〕、トリプルX症候群〔XXX〕、XYY症候群)
- 部分的な染色体欠失・重複症候群(例:ディジョージ症候群〔22q11.2欠失〕、1p36欠失症候群など)
- 単一遺伝子疾患リスク検査(例:軟骨無形成症、嚢胞性線維症、鎌状赤血球症など)
単一遺伝子疾患リスク検査とは?
近年の分子生物学的技術の急速な進歩により、NIPTで染色体の数の異常だけでなく、単一の遺伝子変異に起因する疾患(メンデル遺伝疾患)のリスクも推定できるようになりました。
これらは従来の染色体検査では検出できなかったものです。たとえば、軟骨無形成症の原因となるFGFR3遺伝子の変異や、嚢胞性線維症の原因となるCFTR遺伝子の変異などが対象となります。次世代シーケンサー(NGS)技術の発展により、母体血中の微量な胎児由来cfDNAからこうした特定の遺伝子変異を検出する精度が向上しています。
ただし、単一遺伝子疾患のNIPTは比較的新しい検査分野であり、対象疾患や精度は検査機関によって異なります。検査を受ける際は、どの遺伝子変異が検出対象となるのか、検査の限界は何かについて、遺伝カウンセリングを通じて十分な説明を受けることが重要です。(8)
\お腹の赤ちゃんの遺伝性疾患リスクがわかる/
NIPTと従来検査の比較
各出生前検査の特徴を以下にまとめました。それぞれの検査にはメリットとデメリットがあり、どの検査を選ぶかは妊婦の状況や希望によって異なります。なお、スマートフォンでの閲覧を考慮し、主要な比較項目を分割して整理します。
検査方法・時期・精度の比較
| 項目 | 母体血清マーカー | NIPT |
|---|---|---|
| 検査方法 | 採血 | 採血のみ |
| 検査時期 | 妊娠15〜18週 | 妊娠10週以降 |
| 精度 | 約80% | 約99%以上 |
| 項目 | 羊水検査 | 絨毛検査 |
|---|---|---|
| 検査方法 | 針で羊水を採取 | 絨毛を採取 |
| 検査時期 | 妊娠15〜18週 | 妊娠11〜14週 |
| 精度 | ほぼ100% | ほぼ100% |
リスク・結果の性質の比較
| 検査名 | 流産リスク | 結果の性質 |
|---|---|---|
| 母体血清マーカー | なし | 確率的(スクリーニング) |
| NIPT | なし | 高精度スクリーニング |
| 羊水検査 | 約0.1〜0.3% | 確定診断 |
上記の比較から分かるように、NIPTは従来の母体血清マーカー検査に比べて大幅に高い検出精度(約99%以上)を持ちつつ、採血のみという低侵襲性を維持しています。一方、羊水検査や絨毛検査は確定診断が可能であるため、NIPTで陽性と判定された場合の「最終確認」として不可欠な位置づけにあります。(7)
どの検査を選ぶべき?
どの検査を選ぶかは、「何をどこまで知りたいか」「どの程度のリスクを許容できるか」によって異なります。以下に代表的なケースごとの推奨検査を示します。
- リスクを避けつつ高精度な結果を知りたい場合 → NIPT(妊娠10週以降、採血のみで99%以上の検出率)
- 簡易的にリスクの概要を知りたい場合 → 母体血清マーカー検査(妊娠15週以降、費用が比較的抑えられる)
- 確定的な診断結果がほしい場合 → 羊水検査または絨毛検査(侵襲性はあるが確定診断が可能)
- ご家族に遺伝性疾患の既往がある場合 → 単一遺伝子疾患対応のNIPTや遺伝カウンセリングを先行
- できるだけ早い時期に結果を知りたい場合 → NIPT(妊娠10週から可能)または絨毛検査(妊娠11週から可能)
出生前検査の選択は、単に医学的な精度だけでなく、妊婦ご自身の価値観やライフプラン、パートナーやご家族との話し合いも重要な要素となります。日本産婦人科医会は、出生前検査を受ける前に必ず遺伝カウンセリングを受けることを推奨しています。(9)
遺伝カウンセリングの重要性
出生前検査を受ける際は、遺伝カウンセリングを通じて検査の意味・限界・結果の解釈について十分に理解することが極めて重要です。遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが、以下のような内容について説明とサポートを行います。
- 各検査の精度と限界(偽陽性・偽陰性の可能性)
- 検査結果が陽性だった場合の次のステップ
- 検出対象となる疾患の医学的特徴と生活への影響
- 検査を受けること・受けないことの心理的な側面
- ご家族の遺伝歴に基づく個別のリスク評価
NIPTは高精度なスクリーニング検査ですが、「陽性的中率」(検査で陽性と出た場合に、実際に胎児がその疾患を持っている確率)は、母体の年齢や対象疾患の有病率によって大きく変動します。たとえば、若年妊婦では有病率が低いため、検査陽性でも実際には胎児が正常である偽陽性のケースがあります。こうした統計的な背景を正しく理解するためにも、遺伝カウンセリングは不可欠です。(3)(6)
まとめ
新型出生前診断(NIPT)は、母体や胎児への負担が少なく、高精度に染色体・遺伝子の異常を推定できる点で出生前診断の分野における大きな進歩を遂げました。妊娠10週という早い段階から、採血のみで99%以上の検出率を得られるという利点は、多くの妊婦とそのご家族にとって安心材料となっています。
一方で、NIPTは「確定診断」ではなく「スクリーニング検査」であり、陽性の場合は羊水検査などの確定検査が必須です。偽陽性・偽陰性の可能性がゼロではないため、検査結果の解釈には遺伝カウンセリングの専門的なサポートが欠かせません。
従来の母体血清マーカー検査は感度が約80%と低めですが手軽に受けられ、羊水検査・絨毛検査は侵襲性があるものの確定診断が可能です。それぞれの検査の特徴を正しく理解し、ご家族でよく話し合って、ご自身にとって最適な選択をすることが何より大切です。
seeDNA遺伝医療研究所では、最新のNGS技術を活用したNIPTサービスを提供しており、検査から結果報告までを一貫してサポートしております。ご不明な点やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。(8)
\お腹の赤ちゃんの遺伝性疾患リスクがわかる/
よくあるご質問
Q1. NIPTと従来の出生前診断の最大の違いは何ですか?
A. NIPTは採血のみで行える非侵襲的な検査であり、母体や胎児への流産リスクがほぼありません。従来の羊水検査や絨毛検査は確定診断が可能ですが、針を刺す侵襲的な手技を伴うため、約0.1〜0.3%の流産リスクがあります。NIPTは精度が約99%以上と高い一方、あくまでスクリーニング検査であり、陽性の場合は確定検査が必要です。(6)
Q2. NIPTは妊娠何週目から受けられますか?
A. NIPTは一般的に妊娠10週以降から受検可能です。これは従来の母体血清マーカー検査(妊娠15〜18週)や羊水検査(妊娠15〜18週)と比較して、かなり早い段階で検査が可能という大きなメリットがあります。妊娠10週頃になると母体血中の胎児由来cfDNA量が検査に十分な濃度に達するためです。
Q3. NIPTで陽性と判定された場合はどうすればよいですか?
A. NIPTはスクリーニング検査であるため、陽性結果が出た場合には、羊水検査や絨毛検査などの確定検査を受けることが強く推奨されます。NIPTの偽陽性率は低い(0.1%未満)ですが、ゼロではありません。遺伝カウンセラーや主治医と相談し、結果の意味を正しく理解した上で次のステップを検討してください。(3)
Q4. NIPTで性別も分かりますか?
A. はい、NIPTでは性染色体(X染色体・Y染色体)のcfDNA解析も行えるため、胎児の性別を知ることが可能です。ただし、性別判定を希望するかどうかは妊婦ご自身の選択であり、検査機関によっては性別通知を希望しない選択肢も用意されています。また、性染色体異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)の検出も可能な施設があります。
Q5. NIPTの結果が陰性であれば100%安心してよいですか?
A. NIPTの陰性的中率(陰性結果が正しい確率)は99.9%以上と非常に高いため、陰性であれば対象の染色体異常のリスクは極めて低いと考えられます。ただし、NIPTの検出対象外の異常(構造異常の一部や、対象に含まれない遺伝子疾患など)はカバーされないため、「すべての先天性疾患がない」ことを保証するものではありません。通常の妊婦健診も引き続き大切に受けてください。(8)
Q6. 母体血清マーカー検査とNIPTの費用差はどのくらいですか?
A. 母体血清マーカー検査は一般的に2〜3万円程度、NIPTは検査機関や検査項目によって異なりますが10〜20万円程度が相場です。NIPTは費用が高めですが、精度が約99%以上と大幅に高く、妊娠10週という早期から検査可能で、偽陽性率も低いという利点があります。費用対効果を含めて、遺伝カウンセリングで検討されることをお勧めします。
seeDNA遺伝医療研究所の安心サポート
seeDNA遺伝医療研究所は、国際品質規格ISO9001とプライバシー保護のPマークを取得している安心と信頼のDNA鑑定・遺伝子検査の専門機関です。
家族や親子の血縁関係、パートナーの浮気などにお悩みでしたら、DNA鑑定の専門家が、しっかりとご安心いただけるようサポートいたしますのでお気軽にお問合せください。
【専門スタッフによる無料相談】

著者
医学博士 富金 起範
筑波大学、生体統御・分子情報医学修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(1) 厚生労働省「母体血清マーカー検査に関する見解」, 1999年2月(2) MDPI, 2022年
(3) 厚生労働省「いのちとの出会い 出生前検査の現状と課題」, 1966年2月
(4) 第一部 出生前診断 日本における新型出生前検査(NIPT)のガバナンス ──臨床研究開始まで – 立命館大学生存学研究所, 2026年5月
(5) 厚生労働省「先端医療技術評価部会報告書(NIPT等)」, 1999年2月
(6) 出生前検査認証制度等運営委員会
(7) MDPI, 2024年
(8) MDPI, 2023年
(9) 厚生労働省「みんなで話そう 新型出生前診断はだれのため?」, 1999年2月