リライティング日:2025年02月13日
遺伝子検査は個人の体質や病気のリスクを調べる検査であり、DNA型鑑定は非遺伝子領域を用いて個人識別や血縁証明を行う鑑定です。両者の違いと活用分野を詳しく解説します。
遺伝子検査とDNA型鑑定の違いとは?仕組み・目的・活用分野を徹底解説
「遺伝子検査」とは、名前の通り個人の遺伝子を調べる検査のことです。近年は科学技術の進歩によって遺伝子検査の精度やスピードが格段に向上し、医療・ヘルスケア・犯罪捜査・親子鑑定など、さまざまな場面で利用されています。しかし、「遺伝子検査」と「DNA型鑑定」は名前が似ているため混同されがちです。本記事では、両者の違いを生物学的な観点から詳しく解説するとともに、それぞれがどのような場面で活用されているのかをご紹介します。
遺伝子検査で何が分かる?

①個人の体質
遺伝子は生体のさまざまな反応に関わっているため、遺伝子を調べることで個人の体質を詳しく把握することができます。たとえば、アルコール分解酵素(ALDH2:アルデヒド脱水素酵素2)の遺伝子を調べることで、お酒に強いか弱いかといった体質が分かります。ALDH2遺伝子には活性型と不活性型の変異が存在し、不活性型を持つ方はアセトアルデヒドの分解能力が低いため、少量の飲酒でも顔が赤くなったり気分が悪くなったりしやすいことが知られています。このように、遺伝子検査は個人のもつ先天的な体質を科学的に明らかにする手段として注目を集めています。(1)
②病気の有無・なりやすさ
遺伝子検査では、病気の原因となるような遺伝子の異常(変異)があるかどうかを調べることができます。たとえば、がんや先天性の疾患が疑われる場合、臨床の現場では診断の確定に遺伝子検査を用いることがあります。遺伝子に起因する疾患は数千種類にもおよぶとされ、単一遺伝子疾患だけでなく、複数の遺伝子が関与する多因子疾患(糖尿病・高血圧など)のリスク評価にも遺伝子検査が活用されるようになっています。(2)
また、現時点で病気を発症していなくても、将来的な病気の発症リスクをある程度予測することが可能です。実際に、ハリウッド女優として知られるアンジェリーナ・ジョリー氏は、BRCA1(DNA損傷の修復に関わるタンパク質)遺伝子に異常が見つかり、将来の乳がん発症リスクが87%という診断を受けました。その後、乳がんの発症を防ぐために2013年に両乳房を予防的に切除する決断をしたことは、世界的に大きなニュースとなりました。この出来事は「アンジェリーナ・ジョリー効果」とも呼ばれ、遺伝子検査の社会的認知度を一気に高めるきっかけとなっています。
遺伝子検査はどこに活かせる?

①病気の治療(個別化医療・ゲノム医療)
遺伝子検査は病気の診断だけでなく、治療法の検討にも積極的に取り入れられています。特にがん治療の分野では、従来は同じ種類のがんに対して画一的な治療が行われてきましたが、近年の研究により、同じがんでも個人によって遺伝子変異の特徴が異なり、薬剤の効き目に大きな個人差があることが明らかになってきました。(2)
こうした知見を踏まえ、がん組織の遺伝子変異を網羅的に解析する「がん遺伝子パネル検査」などが臨床の場で活用されるようになっています。これにより、個々の患者に最適な分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を選択する「プレシジョン・メディシン(精密医療)」が可能になりつつあります。日本でも2019年6月から「がんゲノム医療」が保険適用となり、遺伝子検査を活用した個別化治療は今後ますます普及していくことが見込まれます。(2)
②予防医学・ヘルスケア
個人の体質によって、肥満や糖尿病などといった生活習慣病のかかりやすさが異なることが分かってきました。こうした研究成果を活かし、遺伝子検査を予防医学に役立てようという動きが世界的に活発になっています。実際に、いくつかのDNA検査会社がヘルスケア分野に参入し始めており、消費者向け遺伝子検査(DTC検査:Direct-to-Consumer Genetic Testing)として、体質や疾患リスクに関する情報を手軽に知ることができるサービスが増えています。(3)
ただし、こうした消費者向けの遺伝子検査サービスと、医療機関で実施される臨床的な遺伝子検査とでは、検査の精度や解析範囲、結果の解釈に大きな違いがある点には注意が必要です。病気の予防や治療方針を決定する上では、必ず専門の医師や遺伝カウンセラーに相談することが推奨されます。(1)
- 遺伝子検査は体質・疾患リスクを知るための有効な手段
- がんゲノム医療では個別化治療への活用が進んでいる
- 予防医学分野でも生活習慣病リスクの評価に応用されている
- 消費者向けDTC検査と医療機関の検査では精度・目的が異なる
- 結果の解釈には専門家(医師・遺伝カウンセラー)への相談が重要
DNA型鑑定との違い ― 遺伝子領域と非遺伝子領域
遺伝子検査と同じく遺伝情報を調べるものとして、「DNA型鑑定」があります。遺伝子とDNA、どちらもよく似た意味を持つ言葉ですが、実は生物学的には少し定義が異なります。
DNAとは何か
まずDNAというのは、生き物の遺伝情報そのものを担う化合物の名前で、正式にはデオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic Acid)と言います。DNAには4種類の「塩基」と呼ばれる化合物――アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)――があり、これらが特定の順序で並ぶことで多様な配列パターンが生まれます。この配列パターンが「設計図」として機能し、複雑な仕組みを持つ生物の体を構築・維持しています。
遺伝子と非遺伝子領域の違い
私たちヒトは、約30億もの塩基が並んだDNAを2セット(両親から1セットずつ受け継いだもの)持っています。しかし、そこに載っている遺伝情報がすべて使われているわけではありません。「遺伝情報が使われる」とは、より正確に言えば、DNAの情報からタンパク質などが合成され、それが生体内のさまざまな反応で実際に機能するということです。(4)
このようにタンパク質などの情報を含む遺伝情報の単位を「遺伝子」と呼びますが、遺伝子として機能する領域はDNA全体のわずか約2%ほどにすぎません。残りの約98%は「非遺伝子領域」(かつては「ジャンクDNA」とも呼ばれていました)であり、遺伝子の発現を調節する配列や、進化の過程で残った反復配列などが含まれます。近年の研究では、この非遺伝子領域にも重要な調節機能があることが明らかになりつつあり、すべてが「不要な配列」というわけではないことが分かってきています。(4)
それぞれが調べる領域と目的
- 遺伝子検査:DNA上の遺伝子領域(約2%)を主に解析し、個人の体質や病気の有無・リスクなどを検査する。アルコール分解酵素(ALDH2)やBRCA1のような、生体内で機能するタンパク質をコードする遺伝子の変異を調べることが目的。
- DNA型鑑定:DNA上の非遺伝子領域(約98%)に存在する反復配列(STR:Short Tandem Repeat)などを主に解析し、犯罪捜査における個人特定や、親子鑑定における血縁関係の証明に使用する。(5)
- 非遺伝子領域が有効な理由:非遺伝子領域はタンパク質を作らないため自然選択の圧力を受けにくく、結果として塩基配列パターンの多様性が非常に豊富である。この多様性こそが、個人を識別する上で極めて有効な「遺伝学的な指紋」として機能する。
このように、遺伝子検査とDNA型鑑定は、どちらもDNAという同じ物質を対象としていますが、調べる領域と目的が明確に異なります。遺伝子検査が「体質や病気のリスクを知ること」を目的とするのに対し、DNA型鑑定は「個人の同一性や血縁関係を科学的に証明すること」を目的としています。
遺伝子検査とDNA型鑑定の比較まとめ
| 項目 | 遺伝子検査 | DNA型鑑定 |
|---|---|---|
| 解析領域 | 遺伝子領域(約2%) | 非遺伝子領域(約98%) |
| 主な目的 | 体質・疾患リスクの評価 | 個人識別・血縁証明 |
| 活用分野 | 医療・予防医学 | 犯罪捜査・親子鑑定 |
シードナ(seeDNA)のDNA型鑑定について
株式会社シードナ(seeDNA遺伝医療研究所)では、最新の遺伝学的手法を用いた高精度なDNA型鑑定サービスを提供しています。親子鑑定をはじめ、兄弟姉妹鑑定やその他の血縁関係の証明まで、さまざまなニーズにお応えできる体制を整えております。検査結果の解釈や遺伝カウンセリングについてもサポートしておりますので、DNA鑑定に関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
Q1. 遺伝子検査とDNA型鑑定は何が違うのですか?
A. 遺伝子検査はDNA上の遺伝子領域(全体の約2%)を解析し、体質や病気のリスクを調べるものです。一方、DNA型鑑定はDNA上の非遺伝子領域(約98%)に存在する反復配列(STR等)を解析し、個人の同一性や血縁関係を証明するために用いられます。調べる領域と目的が明確に異なります。
Q2. 遺伝子検査で病気の発症を予測できますか?
A. はい、ある程度の予測が可能です。たとえばBRCA1遺伝子の変異が見つかった場合、乳がんや卵巣がんの発症リスクが高まることが分かっています。ただし、遺伝子検査の結果は「リスクの高低」を示すものであり、必ず発症するということではありません。結果の解釈には必ず専門の医師や遺伝カウンセラーへの相談が推奨されます。
Q3. DNA型鑑定ではどのような検査が行われますか?
A. DNA型鑑定では主にSTR(Short Tandem Repeat:短鎖縦列反復配列)と呼ばれる非遺伝子領域の反復パターンを解析します。この反復パターンは個人ごとに異なるため、犯罪捜査での個人特定や、親子鑑定における血縁関係の証明に活用されます。シードナでは複数のSTR座位を同時に解析することで、高い精度の鑑定結果を提供しています。
Q4. 消費者向け遺伝子検査(DTC検査)と医療機関の遺伝子検査は同じですか?
A. いいえ、両者には大きな違いがあります。消費者向けのDTC検査は手軽に利用できますが、解析する遺伝子の範囲や精度、結果の解釈の深さは医療機関で実施される臨床的な遺伝子検査とは異なります。病気の診断や治療方針の決定に関わるような判断は、必ず医療機関で正式な遺伝子検査を受けた上で行うべきです。
Q5. DNA型鑑定はどのようなサンプルで検査できますか?
A. DNA型鑑定では、口腔粘膜(頬の内側を綿棒でこすって採取)が最も一般的なサンプルです。その他にも、血液、毛髪(毛根付き)、爪、唾液などからDNAを抽出して鑑定を行うことが可能です。サンプルの種類や状態によって検査の可否が異なりますので、詳しくはシードナまでお問い合わせください。
Q6. 遺伝子の「非遺伝子領域」はすべて無意味な配列ですか?
A. いいえ、近年の研究により、かつて「ジャンクDNA」と呼ばれていた非遺伝子領域にも、遺伝子の発現を調節するエンハンサーやサイレンサーといった重要な機能を持つ配列が含まれていることが明らかになっています。ただし、DNA型鑑定で用いるSTR領域はタンパク質をコードしないため、個人を識別するマーカーとして有効に活用されています。
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seeDNA遺伝医療研究所は、国際品質規格ISO9001とプライバシー保護のPマークを取得している安心と信頼のDNA鑑定・遺伝子検査の専門機関です。
家族や親子の血縁関係、パートナーの浮気などにお悩みでしたら、DNA鑑定の専門家が、しっかりとご安心いただけるようサポートいたしますのでお気軽にお問合せください。
【専門スタッフによる無料相談】

著者
医学博士 富金 起範
筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(1) Genequest, 2024年3月(2) 国立がん研究センター, 2022年11月
(3) Hum Mutat, 2010年3月
(4) Business Insider Japan, 2021年3月
(5) 日本DNA多型学会, 2019年12月