左利きは親から引き継ぐDNAが影響している可能性

2024.05.27

リライティング日:2025年06月01日

左利きは世界人口の約10%と少数派であり、その遺伝的起源は100年以上研究されてきました。最新研究では稀な遺伝子多型「TUBB4B」が左利きに関連することが判明し、胎児期の身体形成段階から利き手が決定される可能性が示されています。

左利きについての起源に関する遺伝的な研究

左利きについての起源に関する遺伝的な研究

日本を含む世界中のほとんどの人は右利きであり、左利きの人は全体人口の約10%しかいません。ヨーロッパやアメリカでは左利きが多いといわれますが、それでも絶対的に右利きの人が多く、様々な生活用品や習慣も右利きの人向けであることが多くなっています。はさみやペン、パソコンのマウスなど、私たちの身の回りの道具は基本的に右利き用に設計されており、左利きの人が日常生活において不便を感じる場面は少なくありません。(1)

右利きと左利きの遺伝的な起源に関する研究は100年以上前から行われていますが、なぜ左利きの人が少ないのか、なぜ右利きと左利きに分かれるのか、詳しいメカニズムに関してはいまだによくわかっていません。利き手の決定は単純な一つの遺伝子で説明できるものではなく、複数の遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

左利きは環境的な要因もありますが、子供が左利きになる可能性は、両親が右利きよりも両親とも左利きのほうが高いことが調査により発見されました。具体的には、両親ともに右利きの場合、子供が左利きになる確率は約9%であるのに対し、両親ともに左利きの場合はその確率が約26%にまで上昇するとされています。この統計データは、利き手の決定に遺伝的要素が深く関わっていることを強く示唆しています。(2)

この発見により、科学者たちは左利きに遺伝的な要素があると推測し「共通遺伝子多型」に関する大規模な研究を行いました。共通遺伝子多型とは、人口の1%以上の頻度で見られるDNA配列の違いのことで、個人間の遺伝的多様性の多くを説明する重要な指標です。この大規模研究の結果、左利きに関連する41のDNA領域と両利きに関連する7つのDNA領域を明らかにしました。170万人以上のゲノムデータを分析したこの研究は、利き手に関連する遺伝子領域の特定において画期的な成果でした。(1)(2)

これらの発見は確かに興味深いものでしたが、まだ疑問が残されました。それは、左利きになる可能性の高いSNP(一塩基多型)と呼ばれるDNA領域が特定されただけで、どのようなメカニズムで左利きになるのかに関してはごく一部しか説明されなかったことです。SNPとは、DNAの塩基配列において一つの塩基が他の塩基に置き換わっている箇所のことで、ヒトゲノム全体に数百万箇所存在します。特定のSNPが利き手に関連するとわかっても、それがどのような生物学的経路を経て利き手の決定に至るのかという因果関係の解明には至らなかったのです。

左利きにおける稀な多型の役割に関する新しい研究

左利きにおける稀な多型の役割に関する新しい研究

イギリスの科学雑誌「Nature Communications」に発表された最新の研究 では、左利きにおける別の形態の遺伝子多型「稀な多型(レアバリアント)」の役割に焦点を当てた研究が発表されました。以前の研究で調査された共通遺伝子多型とは異なり、この「稀な多型」は1%未満の人にしか見られないものであったため、「稀な多型」に焦点を当てた研究を行うには非常に多くのボランティアが必要でした。(3)

稀な多型が研究の対象として注目される理由は、共通遺伝子多型よりも一つ一つの多型が持つ生物学的影響が大きい傾向があるためです。共通遺伝子多型は多くの人に共有されているため、自然選択の過程でその影響が比較的穏やかに保たれていますが、稀な多型はタンパク質の機能を大きく変える可能性があり、特定の形質との因果関係をより明確に示すことができます。

幸いにして、科学者たちはU.K. Biobank(英国バイオバンク)の38,043人の左利きと313,271人の右利きのデータセットにアクセスすることができました。U.K. Biobankは、イギリスに居住する40~69歳の約50万人のボランティアから収集された健康・遺伝情報のデータベースであり、世界最大規模のバイオメディカルデータベースの一つです。この膨大なデータを活用して、エクソームシーケンシングという手法を用いて、タンパク質をコード(特定タンパク質を作るための遺伝子の塩基配列)するゲノム全領域の遺伝子多型に関する情報を収集して研究を行いました。(4)

エクソームシーケンシングとは、ゲノム全体のうち、タンパク質をコードしている部分(エクソン領域)のみを対象に塩基配列を解読する手法です。ヒトゲノム全体の約1~2%しか占めないエクソン領域ですが、疾患や形質に関連する変異の多くがこの領域に存在するため、効率的かつコスト効果の高い解析方法として広く活用されています。この研究によって、これらの遺伝子が脳や身体の形成に重要なタンパク質を生成するため、左利きの人に関連している可能性があることがわかったのです。

稀な遺伝子多型が左利きに影響する

稀な遺伝子多型が左利きに影響する

この研究により、初めてタンパク質をコードする稀な遺伝子多型「TUBB4B」が左利きに影響することが確認できました。TUBB4Bは、β-チューブリンと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子で、微小管の構築に重要な役割を果たしています。微小管は細胞骨格の主要な構成要素であり、細胞に安定性を与え、細胞分裂時の染色体の分配や細胞内の物質輸送など、多様な細胞機能に関与しています。(5)

特に注目すべきは、微小管が体の左右を決定する非常に初期の人体の発生過程にも関与するものであるという点です。胚発生の初期段階において、細胞の繊毛(シリア)と呼ばれる微小な突起構造が体液の流れを生み出し、この流れが左右非対称な遺伝子発現のきっかけとなります。繊毛の構造は微小管によって支えられているため、TUBB4Bの変異が繊毛の機能に影響を及ぼし、それが体の左右の決定に関わる可能性があるのです。

このメカニズムにより、「TUBB4B」が体の左右の区別(例:心臓が左側にあり、肝臓が右側にある)や利き手と関連していることがわかりました。つまり、赤ちゃんの身体が作られる初期段階から遺伝的な影響を受けて左利きになることを示す発見でした。これは、利き手が生後の学習や環境だけで決まるものではなく、胎児期の発生プロセスにおいてすでにその基盤が形成されていることを意味しています。

左利きと脳の構造の関連性

利き手と脳の構造との関連性についても、近年の研究で多くの知見が蓄積されています。2019年にオックスフォード大学の研究チームが発表した研究では、左利きの人の脳では言語に関わる領域のネットワークがより協調的に機能していることが示されました。脳は左半球と右半球に分かれており、通常は右利きの人では左半球が言語処理の優位半球となりますが、左利きの人ではこのパターンが異なる場合があり、両半球がより均等に言語処理に関与する傾向が見られます。

また、左利きの人に見られるTUBB4B遺伝子の変異は、脳の白質の構造にも影響を与える可能性があります。白質は脳の異なる領域をつなぐ神経線維の束であり、微小管はこの神経線維(軸索)の構造維持に不可欠です。TUBB4Bの変異が微小管の機能に影響を与えることで、神経回路の形成パターンが変化し、結果として利き手の決定に影響する可能性が考えられています。

利き手の遺伝的要因と環境的要因

利き手の決定は、遺伝的要因だけでなく環境的要因も複雑に関与しています。以下に、利き手に影響を与える主な要因を整理します。

  • 遺伝的要因:TUBB4B遺伝子の稀な多型や、41のDNA領域に存在する共通遺伝子多型が利き手に影響する
  • 胎内環境:胎児期のホルモン環境(特にテストステロンの量)が利き手の決定に関与する可能性がある
  • 文化的・社会的要因:かつて多くの文化で左利きは矯正の対象とされ、見かけ上の左利き割合が抑制されていた
  • 出生時の要因:低出生体重や早産が左利きのリスクをわずかに高める可能性が報告されている
  • 脳の側性化:脳の左右の機能分化のパターンが利き手に反映される

現在の科学的知見を総合すると、利き手の約25%は遺伝的要因によって説明できるとされていますが、残りの75%については環境的要因やエピジェネティクス(遺伝子の発現調節)など、まだ解明されていない要素が関与していると考えられています。

左利きの遺伝子検査の可能性

もしあなたが左利きで、環境的な要因により左利きとなったのか、それとも遺伝的な要因で左利きになったのかを調べたいのであれば、TUBB4Bという遺伝子のSNPと呼ばれる特定領域を調べる遺伝子検査が有効でしょう。SNP検査は、DNAの特定部位の塩基配列を解析する技術であり、近年では技術の進歩により比較的手軽に受けることができるようになっています。

遺伝子検査を受ける際の一般的な流れは以下の通りです。

  1. 専門機関への相談・申し込み
  2. 検体(口腔粘膜や血液)の採取
  3. DNAの抽出と対象遺伝子領域の解析
  4. 解析結果の報告と専門家による説明

ただし、TUBB4Bの変異が見つかったとしても、それだけで左利きになることが確定するわけではありません。利き手は多因子形質であり、複数の遺伝子と環境要因の複合的な影響で決まります。遺伝子検査の結果は、あくまでも利き手の遺伝的背景の一部を理解するための手がかりとして位置づけることが重要です。

DNA鑑定や遺伝子検査に関心をお持ちの方は、専門機関に相談されることをお勧めします。シードナ法医学研究所では、最新の遺伝子解析技術を用いた各種DNA鑑定サービスを提供しております。

よくあるご質問

Q1. 左利きは遺伝しますか?

A. はい、左利きには遺伝的な要素があることが科学的に確認されています。両親ともに左利きの場合、子供が左利きになる確率は約26%であり、両親ともに右利きの場合(約9%)よりも有意に高いことがわかっています。ただし、利き手は単一の遺伝子で決まるのではなく、複数の遺伝的要因と環境的要因が複雑に関与する多因子形質です。

Q2. TUBB4B遺伝子とは何ですか?

A. TUBB4Bは、β-チューブリンというタンパク質をコードする遺伝子で、細胞骨格の主要成分である微小管の構築に重要な役割を果たします。2024年にNature Communicationsに発表された研究で、この遺伝子の稀な多型が左利きに関連していることが初めて確認されました。微小管は胚発生初期の左右非対称性の決定にも関わるため、利き手との関連が注目されています。

Q3. 左利きかどうかを遺伝子検査で調べることはできますか?

A. TUBB4B遺伝子のSNP(一塩基多型)を調べる遺伝子検査により、左利きに関連する遺伝的要因の有無を確認することが技術的には可能です。ただし、利き手は多因子形質であるため、遺伝子検査の結果だけで利き手が確定的に予測できるわけではなく、遺伝的背景の一部を理解するための参考情報として位置づけられます。

Q4. なぜ左利きの人は全体の約10%しかいないのですか?

A. 左利きが少数派である正確な理由はまだ完全には解明されていませんが、進化生物学的な仮説がいくつか提唱されています。一つは「闘争仮説」で、左利きが少数派であるからこそ対人競技で有利になるという考え方です。また、脳の側性化(左右の機能分化)の効率性から、右利きが多数派となった可能性も指摘されています。遺伝子レベルでは、左利きに関連する遺伝子多型が集団内で低頻度に維持される選択圧が働いていると考えられています。

Q5. 共通遺伝子多型と稀な多型の違いは何ですか?

A. 共通遺伝子多型は人口の1%以上の頻度で見られるDNA配列の違いで、左利きに関連する41のDNA領域が特定されています。一方、稀な多型は1%未満の頻度でしか見られない変異で、個々の変異が持つ生物学的影響が比較的大きい傾向があります。TUBB4Bの稀な多型は後者に該当し、タンパク質の機能を直接変化させることで左利きに影響を与えることが明らかになりました。研究には大規模なサンプルサイズが必要となるため、U.K. Biobankの約35万人のデータが活用されました。

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医学博士 富金 起範著者

医学博士 富金 起範

筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発

【参考文献】

(1) BBCニュース, 2019年9月
(2) GIGAZINE, 2020年10月
(3) Nature, 2020年9月
(4) Nature, 2024年4月
(5) 遺伝学:左利きに関連する希少な遺伝子バリアントを調べる, 2026年5月
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