リライティング日:2025年07月31日
NIPTで「高リスク」と判定された場合の正しい対応を解説。NIPTはスクリーニング検査であり確定診断ではないため、偽陽性・偽陰性が生じる仕組みや、遺伝カウンセリング・確定診断の重要性を詳しく説明します。
NIPTで「高リスク」の結果が届いたら
通常の臨床検査であれば、結果をもとに病気の有無が明確になり、治療方針を決定できます。しかし新型出生前診断(NIPT)で「高リスク」と通知された場合、状況は大きく異なります。
たとえ結果が高リスクであっても、すぐに中絶を選択することはどの医療機関でも推奨していません。これはNIPTがあくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではないためです。日本では母体保護法により妊婦の身体的・精神的な健康の保護が最優先とされており、NIPTの結果のみをもって重大な決断を下すことは医学的にも法的にも適切ではないとされています。(1)
「新型出生前診断」という名称に「診断」という言葉が含まれているため、結果が確定的だと誤解される方も少なくありません。高リスクの結果を受けた場合は、まずパートナーと話し合い、遺伝カウンセラーなど専門家のサポートを受けることが大切です。日本産科婦人科学会の指針でも、検査前後の遺伝カウンセリングが不可欠であると明確に示されています。(2)
新型出生前診断は「診断」ではない
新型出生前診断は正式な診断ではなく「臨床研究」として行われていることを明確に説明している医療機関は多くありません。出生前検査認証制度等運営委員会の定義では「認定を受けた施設において臨床研究として実施される」と明記されており、NIPTはデータの蓄積を通じてより正確な検査へと発展させていく途上にあるのです。
NIPTの正式な英語名称は「Non-Invasive Prenatal Test」であり、正確な日本語訳は「非侵襲性出生前遺伝学的検査」です。英語名にも「Diagnosis(診断)」ではなく「Test(検査)」が使われていることからも、確定診断ではないことが分かります。(3)
名称に「診断」とあっても、実際には確定的な診断を下す検査ではない点に注意が必要です。日本産婦人科医会でもNIPTの限界について指摘しており、スクリーニング検査としての位置づけを正しく理解することが重要であると述べています。(4)
「高リスク」「低リスク」という結果の意味
NIPTで「高リスク」と出た場合、赤ちゃんに特定の染色体異常がある可能性が高いことを意味します。しかしスクリーニング検査である以上、高リスク=必ず異常があるとは限りません。同様に「低リスク」であっても、「絶対に異常はない」と言い切れるわけでもありません。
NIPTの精度を正しく理解するためには、以下の主要な指標を知っておくことが大切です。
- 感度(Sensitivity):実際に染色体異常がある赤ちゃんを「高リスク」と正しく検出できる割合。ダウン症(21トリソミー)では99%以上と報告されています。(5)
- 特異度(Specificity):実際に異常がない赤ちゃんを「低リスク」と正しく判定できる割合。こちらも99%以上の高い数値です。
- 陽性的中率(PPV):高リスクと出たときに本当に異常がある確率。妊婦さんの年齢やトリソミーの種類によって大きく変動します。
- 陰性的中率(NPV):低リスクと出たときに本当に異常がない確率。99.9%以上と非常に高い数値です。
特に陽性的中率は対象疾患の有病率に大きく影響を受けるため、13トリソミーや18トリソミーのように頻度の低い疾患ではPPVが低下する傾向があります。(6)
NIPTの精度が100%にならない理由
なぜNIPTの精度は100%にならないのでしょうか。NIPTは妊婦さんの血液中に含まれるセルフリーDNA(cfDNA)を分析しますが、このcfDNAは実際には胎盤の絨毛細胞(トロホブラスト)から放出されたものです。つまりNIPTが直接分析しているのは胎児そのもののDNAではなく、胎盤由来のDNAなのです。
最も一般的な偽陽性の原因は「限局性胎盤モザイク(Confined Placental Mosaicism: CPM)」です。胎盤の一部の細胞だけが異常な染色体構成を持つ一方、胎児自体は正常な染色体を持っているため、結果として偽陽性が生じます。
一方、「偽陰性」は胎児由来のcfDNA濃度(胎児画分)が低すぎる場合に生じやすく、一般に胎児画分が4%未満の場合は検査の信頼性が低下するとされています。さらに、2025年2月にアメリカの国立がんセンターに報告されたケースでは、妊婦自身に特定のがんが存在していた場合にもNIPTが偽陽性を示す可能性があることが明らかになりました。(7)
現在、国内で行われているNIPTはすべて海外の検査プラットフォームを利用しています。2025年6月時点で、一部では検査機関が保証していない数値を示したり、精度100%と事実に反する宣伝をしているところもあるため、そういったところには注意が必要です。
残念ながらNIPTの精度は100%ではありません。だからこそ、高リスク判定を受けた後の対応が極めて重要になります。
高リスク判定後に取るべき具体的なステップ
NIPTで高リスクの判定を受けた場合、慌てず以下のステップを踏むことが推奨されます。
- 結果を正しく理解する:高リスクは「確定」ではなく「可能性が高い」ことを意味します。報告書に記載されたリスク値やZスコアを確認しましょう。
- パートナーや家族と共有する:一人で抱え込まず、身近な方と情報を共有して心理的サポートを得ましょう。
- 遺伝カウンセリングを受ける:認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医に相談し、結果の意味や選択肢について説明を受けましょう。(2)
- 確定診断の検討:羊水検査や絨毛検査のメリットとリスクを十分に理解した上で判断しましょう。
- 最終的な意思決定:すべての情報を把握した上で、ご夫婦にとって最善の判断を行います。どのような決断でも専門家がサポートを続けます。
出生前検査認証制度等運営委員会の追跡調査でも、高リスク判定を受けた方の中で確定診断では異常が認められなかったケースが一定数存在しています。高リスク判定=確定ではないという事実を改めて認識することが重要です。
確定診断としての羊水検査・絨毛検査
NIPTで高リスクが出た場合、確定診断として推奨されるのが「羊水検査」と「絨毛検査(CVS)」です。これらは侵襲的検査と呼ばれ、胎児の細胞そのものを直接採取・分析するため、染色体異常の有無をほぼ確実に判定できます。
| 項目 | 羊水検査 | 絨毛検査 |
|---|---|---|
| 実施時期 | 妊娠15〜18週頃 | 妊娠11〜14週頃 |
| 検査方法 | 腹部から羊水を採取 | 胎盤の絨毛組織を採取 |
| 流産リスク | 約0.1〜0.3% | 約0.2〜0.5% |
どちらの検査にもわずかな流産リスクが伴うため、NIPTで事前にリスクを評価し、本当に確定診断が必要な妊婦さんだけが侵襲的検査を受けるという段階的アプローチが世界的に推奨されています。 確定診断を受けるかどうかは、遺伝カウンセラーや産婦人科医と十分に話し合った上で決定してください。
seeDNAでは、お腹の赤ちゃんに高リスクの項目が見つかった場合は、カウンセリング費用と確定診断の受診費用を補助しています。NIPTで「高リスク」の結果が出た場合は、必ずかかりつけの産婦人科や専門医によるカウンセリングを受けましょう。
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よくあるご質問
Q1. NIPTで「高リスク」と出たら、赤ちゃんに必ず異常があるのですか?
A. いいえ、必ずしもそうではありません。NIPTはスクリーニング検査であり確定診断ではないため、「高リスク」は染色体異常の可能性が高いことを示しているに過ぎません。確定するためには羊水検査や絨毛検査などの確定的検査が必要です。偽陽性(実際には異常がないのに高リスクと判定されるケース)も一定の割合で発生します。
Q2. NIPTの「低リスク」の結果は、異常がないことを100%保証しますか?
A. NIPTの陰性的中率は99.9%以上と非常に高い精度を持っていますが、100%ではありません。まれに偽陰性(実際には異常があるのに低リスクと判定されるケース)が生じることがあります。低リスクの結果を受けた場合でも、通常の妊婦健診を継続して受けることが大切です。
Q3. NIPTで偽陽性が出る原因は何ですか?
A. 偽陽性の最も一般的な原因は「限局性胎盤モザイク(CPM)」です。これは胎盤の細胞のみに染色体異常があり、胎児自体は正常な場合に生じます。NIPTは胎盤由来のcfDNAを分析しているため、胎盤の異常を胎児の異常と判定してしまうことがあるのです。また、まれに妊婦自身のがんなどが原因となる場合もあります。
Q4. NIPTで高リスクが出た場合、seeDNAではどのようなサポートがありますか?
A. seeDNAでは、高リスクの項目が見つかった場合に、遺伝カウンセリング費用と確定診断の受診費用を補助するサポート制度を設けています。高リスクの判定を受けた場合は、まずかかりつけの産婦人科医や遺伝カウンセラーにご相談ください。seeDNAのフリーダイヤル(0120-919-097)でも専門スタッフがご質問にお答えしています。
Q5. NIPTは妊娠何週目から受けられますか?
A. NIPTは一般的に妊娠10週目以降から受けることができます。妊娠10週頃になると母体血液中の胎児由来cfDNAの濃度が検査に十分なレベルに達するためです。ただし、胎児画分が低い場合は再検査が必要になることもあります。検査時期についてはかかりつけの産婦人科医やseeDNAの専門スタッフにご相談ください。
Q6. NIPTの精度が100%と宣伝しているところは信頼できますか?
A. NIPTの精度は100%ではなく、そのような宣伝は事実に反しています。国内で行われているNIPTはすべて海外の検査プラットフォームを利用しており、それらの検査機関が保証していない数値を独自に掲げているところも存在します。正確な情報を提供し、適切な遺伝カウンセリング体制を整えている施設を選ぶようにしましょう。
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(1) e-Gov 法令検索(2) 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針, 1999年2月
(3) MDPI, 2023年8月
(4) PMC, 2024年2月
(5) Skeletal Radiol, 2023年11月
(6) Sci Rep, 2015年7月
(7) 日本産婦人科医会, 2018年7月