リライティング日:2024年06月18日
ネス湖の環境DNAを用いた大規模調査により、ネッシーの正体が巨大ウナギである可能性が示されました。首長竜や巨大魚のDNAは検出されず、DNA鑑定技術の新たな活用例として注目されています。
ネッシーの正体とは――DNA鑑定が解き明かした真実
先日、「幻の生物を探して」という記事で、2018年に始動した、DNA鑑定を用いてネッシーの正体を解明する試みを紹介しましたが、ついにその結果が発表されました。世界中の未確認生物(UMA)ファンや科学者が注目するこの研究プロジェクトは、最新の遺伝子解析技術を駆使し、長年の謎に科学的な回答を与えるものとして大きな話題を呼びました。(1)
ネッシーとは何か――目撃証言と諸説の歴史
ネッシーとは、スコットランド北部に位置するネス湖(Loch Ness)で1934年以降に多くの目撃例が報告されてきた未確認生物です。ネス湖は全長約37km、最大水深約230mを誇るイギリス最大の淡水湖であり、その深く暗い泥炭色の水は湖底の視界を極めて悪くすることで知られています。この地理的条件が「巨大生物が潜んでいてもおかしくない」という想像力をかき立て、世界中の人々を魅了してきました。
ネッシーの正体については、これまでに数多くの仮説が提唱されてきました。最も有名なのは「首長竜(プレシオサウルス)の生き残り説」で、約6600万年前に絶滅したとされる海生爬虫類がネス湖に取り残され、ひっそりと生き延びているのではないかという壮大なロマンを含んだ仮説です。そのほかにも、巨大なチョウザメやナマズなどの淡水魚説、あるいは大きな流木や水面の波紋を見間違えたという誤認説など、さまざまな議論が交わされてきました。(2)
しかし、目撃証言や写真の多くが、既知の生物や自然現象を誤認したもの、あるいは意図的な捏造であると判定され、科学界では大型の未知生物がネス湖に存在するという見方は否定される傾向にありました。最も有名な「外科医の写真」と呼ばれる1934年の写真も、後に玩具の潜水艦に首を取り付けた模型であったことが告白されています。
環境DNA(eDNA)とは――水から読み解く生物の痕跡
従来のネッシー調査は、ソナー(音響探知機)や水中カメラなど物理的な手段に頼るものがほとんどでした。しかし、ニュージーランド・オタゴ大学のニール・ジェメル教授率いる国際研究チームは、まったく異なるアプローチを選びました。それが「環境DNA(eDNA:environmental DNA)」の分析です。(3)
環境DNAとは、生物が水中に排出する皮膚細胞、粘液、排泄物、唾液などに含まれるDNA断片のことです。あらゆる生物は生活する過程で微量のDNAを周囲の環境に放出しており、水を採取して高感度な遺伝子解析技術(メタバーコーディングなど)を用いることで、その水域にどのような生物が生息しているかを網羅的に調べることが可能になります。この手法は近年、河川や海洋の生態系調査、絶滅危惧種のモニタリング、外来種の検出など、さまざまな分野で急速に普及しています。(4)
ネス湖300か所からの大規模DNA採取
ジェメル教授のチームは、2018年にネス湖のさまざまな水深・地点を含む約300か所から水のサンプルを採取しました。採取された水からDNAを抽出し、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅した後、次世代シーケンサーを用いて塩基配列を解読しました。得られたDNA情報は、既知の生物種の遺伝子データベースと照らし合わせ、ネス湖にどのような生物が暮らしているかを包括的にマッピングしたのです。
この手法の最大の利点は、生物を直接目視したり捕獲したりしなくても、その存在を高精度で確認できる点にあります。水中に溶け込んだDNAは通常、数日から数週間程度で分解されるため、検出されたDNAは比較的最近その場所にいた生物のものであると推定できます。
DNA分析の結果――首長竜・巨大魚は否定、ウナギが浮上
研究チームが発表した結果は、ネッシーファンにとって衝撃的なものでした。主な発見は以下のとおりです。
- 水中に生息する爬虫類(首長竜を含む)の存在を裏付けるDNAデータは一切検出されなかった
- チョウザメやナマズなど、巨大魚として知られる魚種のDNAも見つからなかった
- 一方で、ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)のDNAが非常に多く検出され、水を採取したほぼ全ての地点で確認された
- 3,000種以上の生物のDNAが検出され、ネス湖の豊かな生態系が明らかになった
ウナギのDNAが検出された量は研究チーム自身も驚くほど多く、ネス湖全域にわたって高密度にウナギが生息していることが示されました。データからウナギの個体サイズまでは特定できないものの、ジェメル教授は「これまで人々が目撃し信じてきたネス湖の怪物が、巨大なウナギである可能性は無視できない」と述べています。(2)
巨大ウナギ説の科学的妥当性
ヨーロッパウナギは通常、体長60cm〜1m程度に成長する魚ですが、まれに1.5mを超える大型個体が報告されることもあります。ウナギは回遊魚であり、大西洋のサルガッソー海で産卵した後、幼生(レプトセファルス)が海流に乗ってヨーロッパの河川や湖沼に到達し、そこで数十年にわたり成長します。理論的には、ネス湖のような栄養豊富で天敵の少ない環境に長期間とどまった個体が、通常よりもはるかに大きく成長する可能性は否定できません。
過去の目撃証言の中には、水面に現れた細長い影や、蛇のようにうねる物体を見たという報告が多数あります。巨大なウナギが水面近くを泳ぐ姿は、薄暗い条件下では確かに「怪物」のように見える可能性があるでしょう。
環境DNA技術が示す未来の可能性
今回のネス湖プロジェクトは、環境DNA技術の威力を世界に示す象徴的な事例となりました。この技術は以下のような順序で実施されます。
- 調査対象の水域から複数地点・複数水深の水サンプルを無菌的に採取する
- フィルターを用いて水中のDNA断片を濃縮・抽出する
- PCR増幅とメタバーコーディングにより、含まれる全生物種のDNA配列を解読する
- 既知の生物種データベースと照合し、生息する種を同定する
- 検出されたDNAの量や分布から、生態系の全体像を推定する
この技術は今後、湖沼や河川だけでなく、深海や極地の生態系調査にも応用が広がると期待されています。また、環境DNA分析は、絶滅したと考えられている種が実はまだ生存しているかどうかを確認するツールとしても注目されており、タスマニアタイガーやニホンカワウソなど、絶滅が疑われる動物の再発見にも役立つ可能性があります。(5)
DNA鑑定の信頼性と応用分野
今回の研究で用いられたDNA鑑定技術は、生態学的な調査に限らず、さまざまな分野で活用されています。法医学における個人識別や親子鑑定はもちろん、食品の産地偽装の検出、違法取引される野生生物の種同定、さらには考古学的な遺物からの古代DNA分析など、その応用範囲は年々拡大しています。
seeDNA(seeDNA遺伝医療研究所)でも、最新のDNA解析技術を用いた各種鑑定サービスを提供しています。DNA鑑定は正確な手順と高品質な分析環境のもとで実施することが極めて重要であり、信頼性の高い結果を得るためには専門機関への依頼が不可欠です。
まとめ――ロマンと科学の交差点
ネス湖には、よく見るネッシーの写真にあるような首長竜はいないことがわかりました。しかし、巨大ウナギが存在する可能性は依然として残っています。首長竜の生き残りがいないと判明したのは少し寂しいですが、見たこともないような巨大ウナギが生息している可能性があると思うと、わくわくしますね。
この研究は、DNA鑑定技術がいかに強力なツールであるかを改めて示してくれました。目に見えない微量のDNAから生物の存在を証明できるこの技術は、未確認生物の謎を解き明かすだけでなく、環境保全や医療など、私たちの生活のあらゆる場面で役立っています。ネッシーの謎がDNA鑑定によって一歩前進したように、今後も遺伝子解析技術が新たな発見をもたらしてくれることでしょう。(3)
よくあるご質問
Q1. ネッシーの正体は結局何だったのですか?
A. オタゴ大学の研究チームが環境DNA分析を行った結果、首長竜や巨大魚のDNAは一切検出されませんでした。一方、ヨーロッパウナギのDNAがネス湖のほぼ全域で大量に検出されたことから、「ネッシーの正体は巨大なウナギである可能性が無視できない」と結論づけられています。
Q2. 環境DNA(eDNA)とは何ですか?
A. 環境DNAとは、生物が水中や土壌中に排出する皮膚細胞、粘液、排泄物などに含まれるDNA断片のことです。水を採取して遺伝子解析を行うことで、その水域にどのような生物が生息しているかを、生物を直接目視・捕獲しなくても調べることができます。
Q3. なぜ首長竜の生き残り説は否定されたのですか?
A. ネス湖の300か所から採取した水サンプルを分析した結果、爬虫類に該当するDNAが一切検出されなかったためです。もし首長竜のような大型爬虫類が生息していれば、環境DNA分析で何らかの痕跡が見つかるはずですが、そのような証拠は得られませんでした。
Q4. ウナギが本当に巨大化することはあるのですか?
A. ヨーロッパウナギは通常60cm〜1m程度ですが、まれに1.5mを超える大型個体が報告されています。ネス湖のように栄養豊富で天敵の少ない環境に長期間生息すれば、通常より大きく成長する可能性は理論的に否定できないとされています。
Q5. この環境DNA技術はネッシー調査以外にも使われていますか?
A. はい、環境DNA技術は現在、河川や海洋の生態系調査、絶滅危惧種のモニタリング、外来種の早期検出など、幅広い環境科学分野で急速に普及しています。また、絶滅したと考えられている生物種が実際にまだ生存しているかを確認するツールとしても注目されています。
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(1) ナショナルジオグラフィック日本版(2) テレ朝NEWS, 2019年9月
(3) 朝日新聞デジタル, 2023年4月
(4) Nature protocols, 2014年1月
(5) The Journal of international medical research, 2014年2月