幻の生物を探して

2019.08.28

リライティング日:2024年12月27日

ネス湖の未確認生物「ネッシー」の謎に、環境DNA分析という最新の遺伝子科学技術で挑んだ国際プロジェクトの全容を解説。目撃の歴史から調査手法、検出された生物種まで詳しく紹介します。

未確認生物(UMA)といえば、皆様は何を思い浮かべますか?

未確認生物(UMA)といえば、皆様は何を思い浮かべますか?UMA(Unidentified Mysterious Animal)とは、目撃談や噂などでその存在が主張はされていますが、生物学的には確認されていない未知の動物のことです。日本で有名なのはツチノコや雪男(ヒマラヤのイエティ)などでしょうか。世界各地にはビッグフット、チュパカブラ、モケーレ・ムベンベなど、数え切れないほどのUMAの伝承が存在しています。(1)

これらのUMAの中でも、特に長い歴史を持ち世界的に知名度が高いのがネッシーです。今回は、数多く噂されているUMAのうち、このネッシーに注目し、最新の遺伝子科学技術を用いた調査プロジェクトについて詳しく解説します。

ネッシーとは?目撃の歴史と20世紀最大のミステリー

ネッシーとは?目撃の歴史と20世紀最大のミステリーネッシーとは、イギリスのスコットランド北部に位置するネス湖(Loch Ness)で目撃されたとされる未確認動物「ネス湖の怪獣(the Loch Ness Monster、ロッホ・ネス・モンスター)」の通称です。ネス湖はグレートグレン断層に沿って形成された細長い淡水湖で、長さ約37km、最大水深は約230mにもおよぶ英国最大の淡水量を誇る湖です。その水は泥炭(ピート)の影響で非常に暗く濁っており、水中の視界はわずか数メートル程度しかありません。この独特の環境が、巨大生物が潜んでいるかもしれないというロマンをかき立ててきました。

ネッシーの最古の記録は西暦565年にまでさかのぼります。アイルランドの修道士コルンバが、ネス川で巨大な水獣に遭遇したという記述が『聖コルンバ伝』に残されています。その後、何世紀にもわたって地元住民の間で目撃談が語り継がれてきましたが、世界的な大ニュースとなったのは1934年のことでした。ロンドンの外科医ロバート・ケネス・ウィルソンが撮影したとされる「外科医の写真」が新聞に掲載されると、長い首を水面に出す恐竜のような姿に世界中が興奮し、目撃情報が相次ぎました。こうしてネッシーは20世紀最大のミステリーとなったのです。(1)

なお、この有名な「外科医の写真」は1994年に撮影者の関係者によってトリックであったことが告白されましたが、それでもネッシーへの人々の関心が衰えることはありませんでした。

ネッシーの存在を証明しようとした科学的調査の歴史

ネッシーの存在を証明しようとした科学的調査の歴史時代が進むにつれ、ネッシーの存在を科学的に証明しようとする者が現れました。1972年には、ボストン応用科学アカデミーがネス湖に水中カメラと音波探知機(ソナー)を導入し、綿密な調査を行いました。その結果、約50cmの生物のヒレのようなものが撮影されました。しかし、画像の解像度が低く、既知の生物のヒレである可能性も排除できなかったため、それはネッシーの存在を証明する決定的な証拠にはなりませんでした。

その後も1987年の「オペレーション・ディープスキャン」では24隻のボートがソナーを用いてネス湖全域を一斉にスキャンし、湖底付近で何らかの大きな動く物体を検出したとされましたが、正体を特定するには至りませんでした。従来の調査手法では、暗く深いネス湖の全容を解明することが極めて困難だったのです。

ネス湖の水をDNA分析するプロジェクト ― 環境DNA(eDNA)技術とは

そして2018年、ニュージーランドのオタゴ大学で遺伝子科学を研究するニール・ジェメル(Neil Gemmell)教授が率いる国際チームが、画期的なアプローチでネッシーの謎に挑みました。それがネス湖の水を環境DNA(eDNA:environmental DNA)分析するプロジェクトです。(2)

環境DNA分析とは、水や土壌などの環境サンプルから生物が残したDNAの痕跡を検出・解析する技術です。あらゆる生物は、生活する中で皮膚の断片、うろこ、羽、毛、粘液、そして排泄物などを環境中に放出しています。これらの微量な生体物質に含まれるDNAを最新の遺伝子解析技術で読み取ることにより、その場所にどのような生物が生息しているか(あるいはかつて生息していたか)を明らかにすることができるのです。(3)

この技術は近年、生態学や生物多様性の調査において急速に発展しており、希少種の発見や外来種のモニタリングなどで成果を上げています。従来は生物を直接捕獲・観察する必要があった調査が、水を汲むだけで可能になるという革命的な手法です。

調査の具体的な方法

このプロジェクトでは、ネス湖の3つの異なる水深から合計約300か所の水サンプルを採取し、フィルターで微粒子を集めてDNAを抽出しました。抽出されたDNA断片は、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いて塩基配列が読み取られ、得られた配列情報を世界中の既知の生物のDNAデータベースと照らし合わせることで、ネス湖にどのような生物がいるのか、あるいは過去にいたのかを解析する仕組みです。

  1. ネス湖の表層・中層・深層の3水深からサンプル水を採取
  2. フィルターを用いて水中の微粒子・有機物を回収
  3. 回収した微粒子からDNAを抽出・精製
  4. 次世代シーケンサーでDNA配列を大規模に解読
  5. 既存のデータベースと照合し、生物種を同定

「ネッシーが存在しないとは断定できない」 ― 調査の中間報告

中間段階で報告された一部の解析結果によれば、ネス湖の水中には約3,000種類もの微生物(細菌やプランクトンなど)が生息していることが確認されるとともに、15種類の魚のDNAが検出されたとのことです。これはネス湖の生態系が想像以上に豊かであることを示す発見でした。

研究者らは「ネッシーが存在しないとは断定できない」と、ポジティブな調査結果を匂わせる発言をしています。この発言は、既知の生物では説明しきれないDNA情報が検出された可能性を示唆するものとして注目を集めました。最終結果は2019年内に発表される見通しとされていました。(2)

最終結果 ― ネッシーの正体は巨大ウナギだったのか?

2019年9月に発表された最終結果では、ネス湖からは首長竜やサメ、チョウザメ、巨大ナマズなどの大型生物のDNAは一切検出されませんでした。しかし、大量のヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)のDNAが検出されたことが大きな話題となりました。ジェメル教授は「ネッシーの正体は通常よりもはるかに大きく成長した巨大ウナギである可能性を否定できない」と述べています。(2)

ウナギは成長すると体長1メートルを超えることもあり、特にネス湖のような栄養豊富で天敵の少ない環境では、さらに大きく成長する個体がいてもおかしくないという見解です。暗く濁ったネス湖の水中で、巨大なウナギが水面に姿を現した瞬間を目撃した人が「怪獣を見た」と報告した可能性があるというわけです。

環境DNA分析が切り拓く未知の生物発見の可能性

今回のネス湖プロジェクトは、ネッシーの正体解明だけでなく、環境DNA分析という技術の有用性を世界に広く示す契機ともなりました。この技術は以下のような分野で今後ますます活用が期待されています。

  • 絶滅危惧種や希少種の生息状況の非侵襲的モニタリング
  • 外来種の早期検出と生態系への影響評価
  • 深海や洞窟など、人間がアクセスしにくい環境の生物多様性調査
  • 過去に絶滅したとされる生物の痕跡検出(再発見の可能性)
  • 水質汚染が生態系に与える影響の長期的な追跡調査

実際に、環境DNA技術によって絶滅したと思われていた生物が再発見された事例もあります。ネス湖のプロジェクトのように、UMAの正体を科学的に解明しようとする試みは、結果としてその地域の生態系に関する貴重なデータを蓄積することにもつながるのです。(4)

DNA鑑定技術の進化と私たちの生活

ネス湖の環境DNA分析プロジェクトで使用された遺伝子解析技術は、私たちの日常生活にも密接に関わっています。DNA鑑定は、親子関係の確認(親子鑑定)、個人識別、法医学的な証拠分析、さらには出生前の遺伝学的検査(NIPT)に至るまで、幅広い分野で応用されています。

微量のサンプルからでも正確にDNA情報を読み取る技術は年々進歩しており、ネス湖の水のような環境サンプルからでも生物種を特定できるレベルにまで到達しました。こうした技術の進歩は、未確認生物の謎を解き明かすだけでなく、医療や法科学の分野でも大きな恩恵をもたらしています。

シードナでは、最新のDNA解析技術を活用した各種DNA鑑定サービスを提供しています。DNA鑑定に関するご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

よくあるご質問

Q1. ネッシーの正体は結局何だったのですか?

A. 2019年に発表されたオタゴ大学の環境DNA分析の最終結果では、ネス湖から大量のヨーロッパウナギのDNAが検出されました。研究チームは、ネッシーの正体が通常より大きく成長した巨大ウナギである可能性を指摘しています。ただし、これは「可能性がある」という段階であり、完全に断定されたわけではありません。

Q2. 環境DNA(eDNA)分析とはどのような技術ですか?

A. 環境DNA分析とは、水や土壌などの環境サンプルから、生物が残した皮膚片・うろこ・排泄物などに含まれるDNAを検出・解析する技術です。生物を直接捕獲する必要がなく、水を採取するだけでその場所に生息する生物種を特定できるため、非侵襲的で効率的な調査手法として注目されています。

Q3. ネス湖のDNA調査ではどのような生物が見つかりましたか?

A. 調査では約3,000種類の微生物と15種類の魚のDNAが検出されました。一方で、首長竜やサメ、チョウザメ、巨大ナマズなどの大型生物のDNAは検出されませんでした。特筆すべきは大量のヨーロッパウナギのDNAが確認されたことです。

Q4. 環境DNA分析は他にどのような分野で活用されていますか?

A. 環境DNA分析は、絶滅危惧種の生息確認、外来種の早期検出、深海・洞窟などの生物多様性調査、水質環境モニタリングなど幅広い分野で活用されています。また、絶滅したとされていた生物が再発見されるきっかけとなった事例もあり、今後さらに応用範囲が広がると期待されています。

Q5. DNA鑑定技術は日常生活にどのように関わっていますか?

A. DNA鑑定技術は、親子関係の確認(親子鑑定)、個人識別、犯罪捜査における法医学的分析、出生前の遺伝学的検査(NIPT)など、幅広い分野で活用されています。ネス湖の調査で使われたような微量サンプルからDNA情報を読み取る技術の進歩は、医療や法科学にも大きな恩恵をもたらしています。

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医学博士 富金 起範著者

医学博士 富金 起範

筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発

【参考文献】

(1) 幻のサラマンダーを再発見、42年ぶり, 2017年11月
(2) 中国「怪獣文化」の研究
(3) Physiol Plant, 2015年7月
(4) 鹿児島大学総合研究博物館ニュースレター No.44, 2012年2月
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