恐竜さえいなければ、人間はもっともっと長生きできた?

2024.06.06

恐竜が人の寿命を短くした?

恐竜の長きにわたる地球の支配は、人間の寿命に関する遺伝子の傾向も変化させた

 かつて地球を支配したといわれる恐竜。ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)、スピノサウルス(Spinosaurus)、アルバートサウルス(Albertosaurus)、これらの恐竜は有名なハリウッド映画にも出演して、誰もが一度は名前を聞いたことがあると思います。
 最近の遺伝子研究から、1億年以上にわたる恐竜たちの支配によって、多くの爬虫類に見られる長寿に関わる遺伝的な特徴が人間の起源となった哺乳類から消えてしまった可能性があることがわかりました[1]

長寿のボトルネック

 現在、哺乳類がこの地球における代表的な生物であり、支配的ともいえるほどの個体数と、多種多様な動物たちが存在しています。この哺乳類の中で、人間の寿命は80年。これは哺乳類の中では寿命が長い方で、人より寿命が長い動物は、一部のクジラにみられる程度です。一般的な哺乳類はそれほど長寿でもなく、小動物などは数年、犬や猫では、10~20年程度の寿命しかありません。
 しかし、爬虫類である亀には300年を超える寿命を持つ種もいますし、植物に至っては1,000年以上生きている種もあります。
著名な老化科学者、ジョアン・ペドロ・デ・マガリャエス博士によると、哺乳類が比較的短命である理由は、かつての恐竜たちが支配していた世界にあると説明しています。
 巨大な爬虫類である恐竜が1億年以上地球を支配していた時代の哺乳類は、ネズミのように小さなサイズで、寿命も短く、夜行性で、恐竜たちの陰に隠れるようにして生きていました。この哺乳類の生態が短い寿命を生んだとの見解です。この見解の詳細であるデ・マガリャエスの仮説「長寿のボトルネック」は、BioEssays誌に掲載されています。

急いで生きて、早く死ぬ

 生物の進化が、種の老化パターンを作っているというのは論理的な推測です。例えば、天敵が多く、常に捕食される側の生物であった当時の哺乳類は、長寿をもたらす遺伝的進化特性よりも、早く成長して繁殖を行い、自らの子孫を増やすことの方が、種としては有利でした。そのため、長寿をもたらす遺伝的特性は選択されなかったということです。
 また、若い頃には有利でも年を取ると有害になる遺伝子特性(拮抗的多面発現)が進化の過程で選択されることもあります。これが最大寿命と体の大きさとの正の相関をもつ要因かもしれません。

 デ・マガリャエスは、当時の哺乳類にとって「急いで生きて早く死ぬ」こそが、卓越した進化戦略だと考えました。そして、恐竜が地上を支配していた1億年以上の間で、哺乳類における長寿の特性が失われたとしています。
 これは常に新しい歯を成長させるような再生能力の欠如も含まれるかもしれません。例を挙げると、象は死因として、最後の歯をすり減らしてしまったあと、食物が摂取できなくなり、餓死で死亡することがあるように、この能力を失ったことで寿命が制限されてしまうことがあるからです。
 もう一つの例として、恐竜の時代に哺乳類が失った能力には、フォトリアーゼDNA保護システムがあります。フォトリアーゼは紫外線などで損傷したDNAを修復する酵素です。
 まだ憶測の域を出ませんが、初期の哺乳類は夜行性であったため、進化の過程でこの特殊な防御能力を失ったのかもしれません。

鳥類や爬虫類には長寿のボトルネックがない

鳥類と爬虫類は人と違い長寿に関する遺伝的傾向を持ちます

 爬虫類の中には、ガラパゴスゾウガメのように、推定最大寿命が200年に近い種もいます。爬虫類の多くは老化が非常に遅く[2]哺乳類と違い死亡率は年齢と共に増加しません(人間では約8年ごとに死亡率が倍増します)。また一部の種は、生涯にわたり繁殖能力を持ち、成長し続けます。
 哺乳類では、ハダカデバネズミだけが、老化が非常に遅い特性を持っていると考えられていましたが、最近の研究では、彼らも老化の兆候を示し、エピジェネティックな老化が起きることが明らかになっています[3]

 哺乳類が短命であるもう一つの理由は、哺乳類が温血動物であることも理由のひとつと考えられています。つまり、爬虫類や両生類と違い、温血であることが老化のプロセスを加速させているという考え方ですが、マガリャエスは、恐竜直系の子孫である鳥類が温血動物であり、しかも小さな体で非常に多くのエネルギーを消費する生活を送っている割には長寿であることを指摘しています。

 地上から恐竜が絶滅し、恐竜による支配から解放された哺乳類は、一部が自らの身体を大きくするなど、多様な進化を遂げています。しかし、もっともゆっくり老化する哺乳類でも、爬虫類、鳥類、両生類の長寿命種には及びません

老化の科学

人の寿命は遺伝子検査によってある程度の傾向がわかります

 デ・マガリャエスの仮説は、老化の科学へすぐに影響を与える研究ではないかもしれませんが、哺乳類、特に人間の寿命について理解するのに役立つかもしれません。例えば、デ・マガリャエス言及したフォトリアーゼDNA保護システムは、遺伝子組み換えマウスを使った研究により発見された[4]ように、老化科学の最先端は、他の生物にみられる長寿を促進するメカニズムを人間に適応させることが基本だからです

 この分野のエキサイティングな研究は、ヴェラ・ゴルブノヴァやアシュリー・ゼンダーとのインタビューで取材され、バーミンガム大学の炎症と老化研究所の分子生物老化学教授であるデ・マガリャエスは、自身のアイデアについて次のように述べています。

 「『長寿のボトルネック』は、哺乳類が何百万年にもわたって老化する方法を作ってきた進化の力を解明する手助けとなるかもしれません。私たち人間は、哺乳類でも長寿である一方で、多くの爬虫類やそのほかの動物は、生涯にわたり老化の兆候がほとんどなく、非常にゆっくりと老化します。恐竜が地上を支配していた時代の哺乳類は、食物連鎖の底辺で生きざるを得ず、約1億年もの長い間で、早く成長しすぐに繁殖することで、生き残るよう進化したと考えられます。哺乳類がその長い圧力の中で進化した老化が、私たち人間の老化のしかたに影響を与えていると提案します。」

[1] de Magalhães, J. P., (2023), The longevity bottleneck hypothesis: Could dinosaurs have shaped ageing in present-day mammals?, BioEssays.
[2] da Silva, R., Conde, D. A., Baudisch, A., & Colchero, F., (2022), Slow and negligible senescence among testudines challenges evolutionary theories of senescence., Science.
[3] Buffenstein, R. (2008), Negligible senescence in the longest living rodent, the naked mole-rat: insights from a successfully aging species., Journal of Comparative Physiology.
[4] Schul, W., Jans, J., Rijksen, Y. M., Klemann, K. H., Eker, A. P., De Wit, J., … & Van der Horst, G. T. (2002). Enhanced repair of cyclobutane pyrimidine dimers and improved UV resistance in photolyase transgenic mice., The EMBO journal.

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