リライティング日:2025年03月12日
DNAの突然変異が起こる原因と、突然変異がDNA鑑定の精度に与える影響について解説。複数のローカスを検査することで99.9999999%以上の父権肯定確率を実現できる仕組みを詳しく説明します。
DNA鑑定の精度 ― 突然変異があっても正確に判定できる理由
DNA鑑定の技術は、地球の人口が約65億人であるのに対して、約21,000兆人を1人ずつ見分けられるほどの精度に達しています。この驚異的な識別能力により、DNA鑑定は確実に血縁関係を証明できる手段として、裁判など法的な場においても広く活用されています。(1)
しかし、現代のDNA鑑定といえども、100%正確な結果であると断定することはできません。なぜなら「DNAの突然変異」などの可能性を、完全に除外することはできないからです。突然変異はあらゆる生物に自然発生的に起こりうる現象であり、DNA鑑定においても一定の影響を及ぼす場合があります。
本記事では、DNAに突然変異が起こる原因のメカニズムを詳しく解説するとともに、突然変異によって鑑定結果に影響する可能性があるのかどうか、そして複数のローカスを検査することでどのように高精度な結果を得られるのかについて、専門的な視点からお伝えしていきます。
DNAに突然変異が起こる原因とメカニズム
細胞は分裂する際に同じDNAをコピー(複製)するのですが、突然変異とはDNAが正常にコピーできず、塩基配列に変化を生じることをいいます。ヒトのゲノムは約30億塩基対から構成されており、細胞分裂のたびにこの膨大な情報を正確に複製しなければなりません。しかし、DNAポリメラーゼ(DNA複製酵素)の校正機能をもってしても、ごくまれにコピーミスが発生します。(2)
また、親から子に遺伝子が受け継がれる際にも、突然変異が起こり異なるDNAが受け継がれることがあります。これは「生殖細胞系列変異(germline mutation)」と呼ばれ、精子や卵子が形成される過程で新たに生じる変異です。研究によれば、ヒトでは世代あたり平均して約40〜80個の新規変異が子に伝わるとされています。(3)
そして、鑑定の際に採取した細胞の一部に突然変異が起こっていると、対象者間でのDNA情報の不一致が起こり、鑑定結果に影響を及ぼす可能性があるのです。
突然変異を引き起こす主な要因
DNAの突然変異が起こる原因としては、以下のような外的・内的要因が考えられています。
- 放射線:X線やガンマ線などの電離放射線は、DNA鎖を直接切断したり、活性酸素種を生成して間接的にDNAを損傷します
- 紫外線:特にUV-Bは、隣接するチミン塩基同士を結合させる「チミンダイマー」を形成し、DNA複製時にエラーを誘発します
- 化学物質:タバコの煙に含まれるベンゾピレン、アフラトキシンなどの化学的変異原は、塩基に直接結合してDNA配列を変化させます
- 内因性の損傷:細胞の通常の代謝過程で生じる活性酸素種(ROS)によって、1日あたり1細胞につき数万件ものDNA損傷が発生しています
- DNA複製エラー:DNA複製酵素による塩基の取り込みミスが、校正機能をすり抜けて固定化される場合があります
しかし、私たちの身体には、たとえDNAが損傷したとしても修復するための仕組みが備わっており、DNAの突然変異が起こりにくいようになっています。代表的なDNA修復機構としては、塩基除去修復(BER)、ヌクレオチド除去修復(NER)、ミスマッチ修復(MMR)などが知られています。これらの修復システムが正常に機能することで、DNA損傷の大部分は速やかに修復されます。
例として、DNA鑑定でよく用いられるSTR(Short Tandem Repeat)法というDNA配列を調べる方法では、突然変異が起こる可能性は平均1%程度となっています。STR法とは、DNAの中で短い塩基配列(通常2〜6塩基)が繰り返される部分(マイクロサテライト)の反復回数を個人ごとに比較する方法で、現在のDNA鑑定において最も広く採用されている手法です。(4)
99.9999999%以上の父権肯定確率を実現する仕組み
仮に突然変異が観察されたとしても、複数の箇所を検査することで限りなく正確に鑑定結果を出すことができます。DNA塩基配列のうち特定の遺伝子の部位を意味するローカス(遺伝子座)を1カ所だけで判断せずに、13〜24ヶ所を調べることによって高い識別精度を得ることができます。
複数ローカス検査が重要な理由
各ローカスは独立したDNA領域であるため、あるローカスで偶然変異が起きたとしても、他のローカスでも同時に変異が起こる確率は極めて低くなります。統計的に言えば、検査するローカスの数が増えるほど、偶然の一致や突然変異による影響を排除でき、鑑定の信頼性は飛躍的に向上します。
- サンプル採取:口腔内スワブ、血液、毛髪などからDNAを抽出
- PCR増幅:対象となるSTRローカスの領域をPCR法で増幅
- 電気泳動・解析:キャピラリー電気泳動装置を用いて各ローカスのアリル(対立遺伝子型)を判定
- 統計的評価:すべてのローカスの結果を総合し、父権肯定確率やCPI(Combined Paternity Index)を算出
- 複数人によるトリプルチェック:人為的ミスを防ぐため、異なる鑑定者が独立して結果を検証
また、既存のSTR法で正確な結果が出せなかった場合でも、seeDNAの超高精度鑑定により、99.9999999%以上の父権肯定確率が確認できたケースが数多くあります。seeDNAでは、より多くのローカスを検査対象に加え、さらにSNP(一塩基多型)解析を併用することで、従来のSTR法だけでは判定が困難なケースにも対応しています。
突然変異がDNA鑑定結果に影響した実際の事例
続いて、DNA鑑定において突然変異が実際に関与した事例をご紹介します。
下半身露出などによって公然わいせつ罪などに問われた男性の裁判において、現場に残された体液と男性のDNAを鑑定した結果、DNA鑑定の結果は14ヶ所が一致、残りの1ヶ所で別の型が検出されており、全てが一致していないため2審では無罪という判決が出されました。
しかし、最高裁の判断では、この別の型が検出された部分は突然変異(体細胞変異)であるとして、第三者のDNAが混入した可能性について否定し、懲役1年の実刑判決を支持したという事例があります。この判例は、DNA鑑定において1ローカスの不一致が必ずしも別人であることを意味しないという重要な法的先例となりました。
このように、DNAが突然変異した場合は、DNA鑑定の結果に影響を及ぼすことがありますが、先述の通り複数のローカスを調べることで限りなく正確に確認することができます。鑑定機関は、1〜2ヶ所の不一致が観察された場合でも、残りのローカスの一致パターンと統計的な解析を組み合わせることで、突然変異による不一致なのか、あるいは本当に異なる個人のDNAであるのかを高い精度で判別しています。
親子鑑定における父権肯定確率の基準
親子鑑定では、99.99%以上の父権肯定確率が得られた場合、生物学的親子であることは覆すことができないと考えられております。実際に日本の裁判所においても、99.99%以上の父権肯定確率をもって親子関係を認定する判例が確立されています。
しかし、DNA鑑定の結果においてエラーが起こる可能性は、0%ではないことを念頭におき、鑑定の精度だけでなく人為的なミスを含めた様々な防止対策を徹底的に行うことが検査機関には常に求められています。具体的には、サンプルの取り違え防止、コンタミネーション(汚染)対策、解析機器の定期的なキャリブレーション(校正)、複数の独立した鑑定者による検証体制などが挙げられます。
seeDNAのトリプルチェック体制で安心のDNA鑑定
seeDNAでは、万が一のミスも許さないトリプルチェック体制でDNA鑑定を行っております。具体的には、以下のような多重チェック体制を敷いています。
- 第1段階:鑑定担当者による初回解析 ― 専門の鑑定士がサンプルのDNA抽出から型判定までを実施
- 第2段階:別の鑑定士による独立した再解析 ― 初回解析とは独立して同一サンプルの再検証を行い、結果の一致を確認
- 第3段階:上席鑑定士(医師)による最終確認 ― すべてのデータと統計解析結果を総合的に評価し、最終的な鑑定報告書を発行
このトリプルチェック体制により、STR法の突然変異による不一致はもちろんのこと、サンプルの取り違えやデータ入力ミスなどの人為的エラーも徹底的に排除しています。万が一、鑑定結果に疑義が生じた場合には、追加のローカス検査やSNP解析を無償で実施するなど、お客様に最大限の安心をお届けする体制を整えております。
DNA鑑定に関してご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q1. DNAの突然変異はどのくらいの確率で起こるのですか?
A. DNA鑑定で一般的に用いられるSTR法では、1つのローカス(遺伝子座)あたりの突然変異率は平均約1%程度です。これは非常に低い確率ですが、ゼロではないため、複数のローカスを同時に検査することで突然変異による影響を排除し、高精度な結果を導き出しています。
Q2. 突然変異が起きたらDNA鑑定の結果は信頼できなくなりますか?
A. いいえ、1ヶ所で突然変異が観察されたとしても、13〜24ヶ所のローカスを総合的に評価するため、鑑定結果全体の信頼性が損なわれることはほとんどありません。seeDNAの超高精度鑑定では、99.9999999%以上の父権肯定確率を確認できたケースも多数あります。
Q3. STR法とはどのような鑑定方法ですか?
A. STR(Short Tandem Repeat)法とは、DNAの中で短い塩基配列(2〜6塩基)が繰り返される部分の反復回数を個人ごとに比較する手法です。現在のDNA鑑定において最も広く採用されている方法であり、高い識別精度と信頼性を持っています。
Q4. 親子鑑定で「父権肯定確率99.99%以上」はどのような意味ですか?
A. 父権肯定確率99.99%以上とは、検査対象の男性が子の生物学的父親である確率が99.99%以上であることを意味します。この数値が得られた場合、日本の裁判所でも親子関係を認定する基準として広く受け入れられています。
Q5. seeDNAのトリプルチェック体制とは具体的にどのようなものですか?
A. seeDNAでは、①専門鑑定士による初回解析、②別の鑑定士による独立した再解析、③上席鑑定士(医師)による最終確認、という3段階の検証体制を敷いています。この多重チェックにより、突然変異の見逃しや人為的ミスを徹底的に防止しています。
Q6. DNAの突然変異を引き起こす原因にはどのようなものがありますか?
A. 主な原因として、放射線(X線・ガンマ線)、紫外線、タバコの煙などの化学物質、細胞の代謝過程で生じる活性酸素種、そしてDNA複製時の酵素によるコピーミスが挙げられます。ただし、人体にはDNA修復機構が備わっており、大部分の損傷は速やかに修復されます。
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seeDNA遺伝医療研究所は、国際品質規格ISO9001とプライバシー保護のPマークを取得している安心と信頼のDNA鑑定・遺伝子検査の専門機関です。
家族や親子の血縁関係、パートナーの浮気などにお悩みでしたら、DNA鑑定の専門家が、しっかりとご安心いただけるようサポートいたしますのでお気軽にお問合せください。
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著者
医学博士 富金 起範
筑波大学大学院 生体統御・分子情報医学 修士/博士課程卒業
2017年に国内初となる微量DNA解析技術(特許7121440)を用いた出生前DNA鑑定(特許7331325)を開発
【参考文献】
(1) Nucleic Acids Res, 2012年2月(2) Nature, 2012年8月
(3) 遺伝子検査・DNA鑑定のseeDNA, 2021年1月
(4) 朝日新聞, 2026年5月