遺伝子検査の有効性とDNA型鑑定との違い
2021.05.06
「遺伝子検査」とは、名前の通り個人の遺伝子を調べる検査のことです。近年は科学技術の進歩によって遺伝子検査の精度やスピードが格段に向上し、さまざまな場面で利用されています。
遺伝子検査で何が分かる?
①個人の体質
遺伝子は生体の反応に関わっているため、遺伝子を調べることで個人の体質が分かります。例えば、アルコール分解酵素の遺伝子を調べることで、お酒に強いか、弱いかといった体質が分かります。
②病気の有無、なりやすさ
病気の原因となるような遺伝子の異常があるかどうかが分かります。例えば遺伝子の異常による病気(がんや先天的な病気)が疑われる場合、診断の確定に遺伝子検査を用いることがあります。
また、病気を発症していなくても、将来的な病気の発症リスクをある程度予測することができます。実際に有名なハリウッド女優であるアンジェリーナジョリーは、BRCA1(DNA損傷の修復に関わるタンパク質)遺伝子に異常が見つかり、将来の乳がん発症リスクが87%という診断を受けました。その後乳がん発症を防ぐため、2013年に両乳房を切除しています。
遺伝子検査はどこに活かせる?
①病気の治療
遺伝子検査は病気の診断だけでなく、治療法の検討にも取り入れられています。主にがん治療において、これまでは同じがんに同じ治療が行われてきましたが、個人によってがん(遺伝子変異)の特徴が異なり、薬剤の効き目に個人差があることが分かってきました。こういった違いなどを遺伝子検査によって調べ、個々に適した治療を行うことがあります。
③予防医学
個人の体質によって肥満や糖尿病などといった生活習慣病のかかりやすさが違うことが分かってきました。こういった研究成果などを活かして、予防医学に役立てようという動きが活発になってきています。実際にいくつかのDNA検査会社が、ヘルスケア分野に参入し始めています。
DNA型鑑定との違い
遺伝子検査と同じく遺伝情報を調べるものとして、DNA型鑑定があります。遺伝子とDNA、どちらもよく似た意味を持つ言葉ですが、実は生物学的には少し定義が異なります。
まずDNAというのは、生き物の遺伝情報そのものである化合物の名前で、正確にはデオキシリボ核酸と言います。DNAには4種類(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)の「塩基」と呼ばれる化合物があり、これが並ぶことで作られる多様な配列パターンが設計図となって、複雑な仕組みを持つ生物の体を動かしています。
私たちヒトは30億もの塩基が並んだDNAを2つ(両親から1つずつもらったもの)持っていますが、そこに載っている遺伝情報がすべて使われているわけではありません。「遺伝情報が使われる」というのをもう少し詳しく説明すると、DNAの情報からタンパク質などが作られ、それが生体内の反応で働くということです。こういったタンパク質などの情報を含む遺伝情報を「遺伝子」と言い、この遺伝子領域はDNA全体の2%ほどしかありません。遺伝子の発現を調節するものや、進化の名残で残ったものなどが残りの98%を占め、これらはタンパク質の情報を含まない非遺伝子領域です。
遺伝子検査では遺伝子領域を調べ、個人の体質や病気の有無などを検査します。先述のアルコール耐性と乳がん発症リスクの話を例に挙げると、アルコール分解酵素もBRCA1も生体内で働くタンパク質ですので、この遺伝情報は遺伝子と言えます。 一方、DNA型鑑定では主に非遺伝子領域を調べ、犯罪捜査の個人特定や親子鑑定における血縁証明に使われます。この非遺伝子領域は塩基配列パターンの多様性に富み、個人を識別する上で有効な目印となるのです。
参考資料
・厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-05-004.html
・一般社団法人 日本遺伝カウンセリング学会
http://www.jsgc.jp/geneguide.html
・国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/gentest02.html
・BUISINESS INSIDER アナリストレポート
https://www.businessinsider.jp/post-230509
・小林武彦 著「DNAの98%は謎 生命の鍵を握る『非コードDNA』とは何か」講談社
・日本DNA多型学会「DNA鑑定の指針(2019)」
http://dnapol.org/guideline2019
著者:sukari
大学と大学院で専攻した生物科学の知識を活かし、科学系の記事を執筆しています。